厚生労働省が2025年10月に公表した集計では、2022年3月に大学を卒業して就職した人のうち33.8%が3年以内に最初の会社を辞めています。高校卒では37.9%です。従業員5人未満の事業所に入った大卒者では57.5%、宿泊業・飲食サービス業では55.4%にのぼります。新卒で入った会社を早く辞めること自体は、珍しい選択ではありません。
ただ、新卒1年目の退職には、2年目以降の退職にはない特徴があります。入社からの月数によって、使える制度がまだ「解禁」されていないのです。有給休暇は入社6か月まで発生せず、自己都合の失業保険は原則として雇用保険の加入期間が12か月ないと受け取れません。逆に住民税は、1年目には給料から引かれず、翌年の6月から請求が始まります。同じ「1年目で辞める」でも、何月に辞めるかで手元に残るお金と、辞めたあとの選択肢が変わります。
この記事では、4月1日入社の新卒を例に、辞める時期で変わる段差を時系列で整理しました。そのうえで、段差を待たずにすぐ辞めていいケースと、自己都合ではなく会社都合に近い扱いになりうる条件を、厚生労働省・ハローワークの公開資料をもとにまとめています。
新卒1年目でも、期間の定めのない雇用なら民法627条により申し入れから2週間で辞められます。仕事内容や人間関係が合わないだけなら、次の仕事を探しながら入社6か月(有給10日)や12か月(失業保険の受給資格)の段差を越えた日を退職日にすると、使える制度が増えます。一方、心身の不調・ハラスメント・求人や契約と違う労働条件・月45時間を超える残業が続いているなら、段差を待つ必要はありません。後者の多くは、6か月以上の加入で失業保険の対象になりうる「特定受給資格者」「特定理由離職者」の判断基準にも関わります。自分で切り出せないなら、退職代行を使っても離職票や源泉徴収票は通常どおり発行されます。
新卒1年目でも辞められる(法律の前提)
正社員の新卒採用の多くは、期間の定めのない雇用契約です。この場合、民法627条1項により、退職を申し入れてから2週間がたてば雇用契約は終了します。会社の承諾は要件ではなく、「1年目は辞められない」「研修が終わるまでは辞められない」というルールは法律にはありません。就業規則に「1か月前までに申し出ること」とある場合も、円満に進めるならそれに合わせるのが無難ですが、民法の2週間が優先されるという解釈が一般的です。
入社後しばらくは試用期間に当たる会社も多いですが、試用期間は会社が本採用を判断するための期間で、労働者の辞める自由を縛るものではありません。詳しくは試用期間中に辞めたいときで整理しています。
労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じています。「1年以内に辞めたら研修費を返す」といった一律の取り決めは、無効とされる可能性があります。ただし、会社が費用を貸し付ける形の留学・資格取得の制度などは扱いが分かれるため、実際に請求されたときは弁護士に相談してください。考え方は退職で損害賠償を請求されるケースにまとめています。
辞める時期で変わる5つの段差(時系列)
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。4月1日に入社した新卒を例に、退職日がどこにあるかで変わるものを時系列に並べました。どの段差も「越えたほうが得」とは限りませんが、知らずに数日違いで越え損ねるのは避けたいところです。
- 入社〜2か月未満(〜5月末ごろ) 健康保険の任意継続ができない 会社の健康保険を退職後も続ける任意継続は、資格喪失日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間が必要です。これより前に辞めると、国民健康保険か家族の扶養のどちらかになります。比べ方は任意継続と国民健康保険の比較へ。
- 夏の賞与(6〜7月ごろ) 1年目は少額のことが多い 夏の賞与は前年冬〜春の勤務を査定期間にする会社が多く、1年目は寸志や少額になりがちです。支給日に在籍していることが条件の会社も多いため、もらうつもりなら支給日の後に退職日を置きます。詳しくはボーナスをもらってから辞める方法で解説しています。
- 入社6か月(10月1日ごろ) 有給休暇が10日つく 労働基準法39条により、6か月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日の年次有給休暇が付与されます(会社が前倒しで付与している場合もあります)。この日を越えてから辞めると、退職前に有給を使って出社日を減らせます。使い方は有給消化しながら退職する方法へ。
- 冬の賞与(12月ごろ) 1年目で最初のまとまった賞与になりやすい 査定期間に入社後の勤務がまるごと入るため、1年目の冬は金額が出やすい時期です。ここも支給日在籍の条件を就業規則で確認します。
- 入社12か月(翌年3月末ごろ) 自己都合でも失業保険の受給資格に届く 自己都合退職の基本手当は、原則として離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上必要です(賃金の支払いの基礎となった日が11日以上、または労働時間が80時間以上ある月を1か月と数えます)。新卒で前に加入歴がない人は、入社からほぼ丸1年が目安です。受け取りまでの日数は失業保険はいつからもらえる?で整理しています。
- 翌年6月 1年目の給料に対する住民税の請求が始まる 住民税は前年の所得に対してかかるため、1年目の給料からは原則として引かれていません。1年目の途中や翌年の春に辞めても、1年目の給料分の住民税は翌年6月以降に納付書で届きます。辞めたあとの生活費に入れておきます。仕組みは退職後の住民税へ。
表にまとめると、次のようになります。
| 退職のタイミング(4月1日入社の例) | 有給 | 任意継続 | 自己都合での失業保険 |
|---|---|---|---|
| 5月末より前 | なし(前倒し付与の会社を除く) | 不可 | 原則なし |
| 6月〜9月 | なし(同上) | 可 | 原則なし |
| 10月〜翌年3月中旬 | 10日 | 可 | 原則なし |
| 翌年3月末以降 | 10日 | 可 | 受給資格に届く(給付制限1か月) |
※ 労働基準法39条、健康保険法37条、雇用保険法13条・14条・33条、厚生労働省「ハローワークインターネットサービス」の説明をもとに整理。有給は8割以上の出勤が条件です。被保険者期間は月ごとの日数・時間の条件があるため、正確な月数はハローワークか会社の人事に確認してください。会社都合など(特定受給資格者・特定理由離職者)に当たる場合は、離職前1年間に6か月以上の加入で受給資格を満たします。
自己都合で辞めた場合の給付制限は、2025年4月の改正で原則1か月になりました(5年以内に自己都合退職を3回以上くり返した場合などは3か月)。新卒1年目でこれに当たることはまずありません。
待つか、すぐ辞めるかの判断基準
段差は「越えると制度が増える」というだけで、そのために体や心を削るものではありません。辞めたい理由によって、待つ価値があるかどうかは大きく変わります。
| 辞めたい理由 | 段差を待つ価値 | 先にやること |
|---|---|---|
| 眠れない・食べられない・朝に体が動かないなど、心身の不調 | 待たない | まず医療機関を受診し、働き方は医師の意見を聞いて決める。在職中なら休職と傷病手当金も選択肢 |
| 上司・先輩からの暴言、無視、過度な叱責 | 待たない | 日時と内容をメモ・録音・メールで残す。パワハラで辞めたいときの進め方へ |
| 求人票や労働条件通知書と、実際の給料・勤務地・仕事内容が大きく違う | 待たなくてよい | 求人票・内定通知・労働条件通知書と給与明細を保存する(次の節の条件に関わる) |
| 残業が毎月45時間を大きく超えている | 待たなくてよい | 勤怠記録・PCのログ・業務メールの送信時刻を残す |
| 仕事内容が合わない・配属が希望と違う | 検討の余地あり | 異動や配属替えの見込みを上司・人事に確認し、次の仕事を探しながら段差を越えた日を退職日にする |
| 人間関係がなんとなく合わない・成長できる気がしない | 検討の余地あり | 次の仕事の目星をつけてから辞める。面接では「次に何をしたいか」を言えるようにしておく |
※ 当サイトでの整理です。体調に関わる判断は医師の意見を優先してください。休職と退職の順番は休職が先か退職が先かで解説しています。
上の4行に当てはまるのに「せめて1年は」と我慢するのは、おすすめしません。次の節で触れるとおり、そうした事情で辞める場合は、加入6か月以上で失業保険の受給資格を満たす扱いになることがあり、12か月の段差そのものの重みが小さくなるからです。
会社都合に近い扱いになりうる3つの条件
退職届に「一身上の都合」と書いても、離職の理由はハローワークが事実にもとづいて判断します。ハローワークインターネットサービスの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」には、新卒1年目の退職でも関わりやすい項目がいくつかあります。
| 条件(判断基準の要旨) | 区分 | 残しておく資料の例 |
|---|---|---|
| 労働契約を結ぶときに明示された労働条件が、事実と著しく違ったことによる離職 | 特定受給資格者 | 求人票、労働条件通知書、内定通知、給与明細、勤務表 |
| 離職直前6か月間のうち、連続する3か月で45時間を超える時間外労働があったなどの理由による離職 | 特定受給資格者 | タイムカード・勤怠システムの記録、PCの起動・終了ログ、業務メールの送信時刻 |
| 上司・同僚などからの故意の排斥、著しい冷遇、嫌がらせを受けたことによる離職 | 特定受給資格者 | 日時入りのメモ、録音、メッセージの画面、社内の相談窓口への相談記録 |
| 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷などによる離職 | 特定理由離職者 | 医師の診断書や、働くことが難しいことが分かる資料 |
※ 厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」(2026年10月確認)から要旨を抜粋。実際に該当するかは、離職票の内容と提出資料をもとにハローワークが判断します。
これらに当たると認められると、離職前1年間に雇用保険の加入が6か月以上あれば受給資格を満たし、自己都合の給付制限もかかりません。新卒なら、入社から半年を過ぎていれば対象になりうるということです。会社が離職票に「自己都合」と書いてきても、ハローワークで異議を申し立てられます。手順と用意する資料は会社都合退職にできるケースで解説しています。
- 勤怠システムや業務メールは、退職するとアクセスできなくなります。自分の勤務記録や受け取ったメッセージを、会社のルールに反しない範囲で控えておきます
- 顧客情報や社外秘の資料を持ち出すと、別の問題になります。持ち出してよいものの線引きは退職時の会社PC・スマホのデータ整理を参考にしてください
- 未払いの残業代がある場合は、請求の時効(3年)とあわせて未払い残業代を請求する方法も確認しておきます
在籍1年未満では使えない制度
もうひとつ、1年目ならではの落とし穴があります。退職後も続けて受け取れる制度の一部は、1年以上の加入が条件になっていることです。
- 退職後の傷病手当金(継続給付):健康保険の傷病手当金を退職後も受け取り続けるには、資格喪失日の前日までに継続して1年以上の被保険者期間が必要です。1年目で辞めると、在職中に受け取り始めていても、退職後は原則として続けて受け取れません。体調が理由なら、退職日を決める前に傷病手当金の受け取り方を読み、主治医と会社の制度を確認してから順番を考えてください
- 自己都合での失業保険:前の節のとおり、原則12か月の加入が必要です
- 退職金:勤続3年以上などを支給の条件にしている会社が多く、1年目は対象外のことがほとんどです。就業規則(退職金規程)で確認できます
反対に、在職中の傷病手当金には加入期間の条件がありません。業務外の病気やけがで働けず、連続3日の待期のあと4日目以降も休んだ場合に対象になります。心身の不調で辞めることを考えているなら、「辞める」より先に「休む」を選べるかどうかで、受け取れるお金が大きく変わることがあります。判断は医師と相談のうえで行ってください。
辞めたあとのお金の手続き
新卒1年目で辞めた場合も、手続きの中身は通常の退職と同じです。次の会社にすぐ入らない場合は、期限の短いものから片づけます。
-
健康保険の切り替え(退職日の翌日から14日以内が目安)
国民健康保険に入るか、2か月以上加入していれば任意継続を選びます。親など家族の健康保険の扶養に入れる場合もあります。保険料の比べ方は任意継続と国民健康保険の比較へ。
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国民年金への切り替え(同じく14日以内)
市区町村の窓口で手続きします。失業による保険料の免除・猶予の特例もあります。退職後の年金の切り替えで手順を確認できます。
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離職票と源泉徴収票を受け取る
離職票は失業保険の手続きに、源泉徴収票は次の会社での年末調整か確定申告に使います。1年目の退職では、年の途中で辞めて所得税が引かれすぎていることが多く、その年に再就職しなければ確定申告で戻るケースがあります。
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翌年6月の住民税に備える
1年目の給料に対する住民税が、退職後に納付書で届きます(1年目はまだ給料からの天引きが始まっていないため)。納め方と期限は退職後の住民税で確認できます。
会社の寮や借り上げ社宅に住んでいる新卒は、退去の期限も確認が必要です。社宅・寮は退職後いつまで住めるかで目安を整理しています。手続き全体の順番は退職後の手続きと順番にまとめています。
次の仕事の探し方と職歴の書き方
新卒で入った会社を3年以内に辞めた人は、一般に「第二新卒」と呼ばれ、20代向けの求人やエージェントでは珍しい経歴ではありません。在籍が1年に満たない場合も、職務経歴書には事実を短く書けば足ります。長く在籍したように見せたり、在籍そのものを書かなかったりすると、雇用保険の加入記録などから分かることがあり、経歴の詐称を問われる可能性があります。
面接で聞かれるのは、辞めた理由そのものより「次の職場で同じことが起きないか」です。前の会社を責める言い方を避け、自分が何を基準に仕事を選び直すのかを話せるようにしておくと、短い在籍期間の説明が楽になります。答え方の組み立ては面接で退職理由をどう答えるかで解説しています。辞めてから探すか、探してから辞めるかで迷っている人は転職先が決まっていないのに辞めていいかも参考になります。
第二新卒の転職は、在籍が短い理由をどう伝えるか、未経験の職種に移れるかといった相談が中心になります。20代を専門にしたエージェントなら、こうした相談を日常的に扱っています。相談は無料で、その場で応募を決める必要はありません。
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言い出せないとき
新卒の退職で多いのが、「育ててもらっている途中なのに申し訳ない」「同期や教育担当に迷惑がかかる」という気持ちで切り出せないケースです。伝え方とタイミングは退職を言い出せないときの切り出し方と退職を伝えるベストなタイミングにまとめていますが、上司と話すこと自体が負担になっている場合は、退職代行という選択肢もあります。
退職代行を使っても、離職票や源泉徴収票は通常どおり発行されます。一方で、退職代行には運営元が3つあり、できることが違います。民間企業が運営するサービスができるのは退職の意思を伝えるところまでで、退職日や有給の扱いを会社と交渉することはできません。労働組合が運営するサービスは団体交渉として退職日などを話し合え、未払い賃金の請求や損害賠償への対応まで任せたいなら弁護士が対象になります。違いは民間・労働組合・弁護士の違いで、各社の比較は退職代行おすすめ5社比較で確認できます。
- 入社日と、希望する退職日(段差を越えたい日があれば伝える)
- 有給休暇の残り日数(入社6か月未満ならたいてい0日)
- 会社から借りているもの(社員証・PC・制服・寮の鍵など)と返し方の希望
- 離職票・源泉徴収票の送り先の住所
よくある質問
新卒1年目で辞めると失業保険はもらえませんか?
入社して何か月で辞めると損が少ないですか?
辞めたあとに住民税の請求が来ると聞きました。
研修費を返すように言われました。払わなければいけませんか?
1年未満で辞めると、次の転職で不利になりますか?
体調を崩して辞めたい場合、傷病手当金はもらえますか?
まとめ:辞める理由で「待つか」を決め、段差で「いつ」を決める
- 新卒1年目でも、期間の定めのない雇用なら申し入れから2週間で辞められる(民法627条)
- 辞める時期の段差は2か月(任意継続)・6か月(有給10日)・12か月(失業保険)・翌年6月(住民税)。賞与は支給日在籍の条件を確認
- 心身の不調・ハラスメント・労働条件の相違・長時間残業は段差を待たない。証拠を残し、受診や相談を優先する
- これらの事情は特定受給資格者・特定理由離職者に当たる可能性があり、加入6か月以上で失業保険の受給資格を満たしうる
- 退職後の傷病手当金の継続給付は1年以上の加入が条件。体調が理由なら「休む」を先に検討する
- 職歴は事実を短く書く。言い出せないなら退職代行でも離職票・源泉徴収票は通常どおり発行される
まずは、自分が辞めたい理由が判断基準の表のどの行に当たるかを確かめ、そのうえで入社日からの月数を数えてみてください。それだけで、待つべきか、いつ辞めるのがよいかの答えはかなり絞れます。
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」(2025年10月24日)— 就職後3年以内の離職率、事業所規模別・産業別の離職率
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」(2026年10月確認)
- 厚生労働省「雇用保険制度 Q&A」— 受給資格に必要な被保険者期間(12か月・6か月)
- 民法627条1項 — 期間の定めのない雇用の解約の申入れ
- 労働基準法16条(賠償予定の禁止)・39条(年次有給休暇)
- 雇用保険法13条・14条(受給資格と被保険者期間)・33条(給付制限)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「任意継続」「傷病手当金」— 任意継続の2か月要件、資格喪失後の継続給付の1年要件、待期3日
- 本文は一般的な法令・制度の解説です。個別の事情による判断は、ハローワーク・労働基準監督署・弁護士にご相談ください。体調に関わる判断は医師の意見を優先してください