退職後の手続きのなかで、いちばん後回しにされやすいのが年金です。健康保険は「保険証がないと病院に行けない」という差し迫った理由がありますが、年金は切り替えなくても明日すぐ困るわけではないからです。
ただ、この「すぐ困らない」がやっかいで、放置した期間はそのまま未納として記録に残ります。未納は将来の老齢年金が減るだけでなく、万一のときの障害年金・遺族年金の資格にも関わります。しかも、払えないなら払えないなりの正しい手続きがきちんと用意されています。
退職後の年金は3つに分かれます。①すぐ転職する→第2号(勤務先が手続きするので自分では何もしない)、②配偶者の扶養に入る→第3号(配偶者の勤務先を通じて手続き・保険料の自己負担なし)、③それ以外→第1号(自分で市区町村役場へ届け出て納める)。
第1号になる人の期限は退職日の翌日から14日以内。保険料は令和8年度で月17,920円です。そして最も大事なのは、払えないときに「放置」ではなく「免除・納付猶予の申請」を選ぶこと。退職を理由とする特例なら前年の所得にかかわらず申請でき、免除された期間は年金の受給資格期間に算入されます。
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退職そのもので詰まっているなら
年金の手続きは、退職日が確定して離職票などの書類が届いてからが本番です。会社とのやり取りが進まない段階なら、そちらを先に片づける必要があります。
退職後の年金は3つに分かれる(比較表)
日本の公的年金では、20歳以上60歳未満の人は必ずどれかの被保険者に区分されます。会社員のあいだは厚生年金に加入する第2号被保険者でしたが、退職するとその資格を失うため、次の受け皿を決める必要があります。
| 区分 | 該当する人 | 保険料 | 手続きをする人 |
|---|---|---|---|
| 第1号 被保険者 |
次が決まっていない、自営業になる、学生に戻るなど | 月17,920円 (令和8年度) |
自分 市区町村役場へ14日以内 |
| 第2号 被保険者 |
退職日の翌日から間を空けずに転職する | 給与天引き (労使折半) |
転職先の会社 |
| 第3号 被保険者 |
厚生年金に加入している配偶者に扶養される | 自己負担なし | 配偶者の勤務先 |
※ 保険料は2026年9月時点(令和8年度)の金額です。第3号被保険者は20歳以上60歳未満で、年収130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満であることが要件とされています。
ここで見落とされやすいのが、「転職先が決まっていても、間が空けば第1号の期間が発生する」という点です。3月31日退職・4月1日入社なら空白はありませんが、3月20日退職・5月1日入社なら、そのあいだは第1号として自分で手続きと納付が必要になります。「次が決まっているから何もしなくていい」ではありません。
- 退職日の翌日に入社する → 何もしなくてよい(転職先が手続き)
- 1日でも空く → その期間は第1号。市区町村役場で届出が必要
- 配偶者が会社員・公務員で、扶養に入れる → 第3号。配偶者の勤務先へ申し出る
- 60歳を過ぎている → 国民年金の加入義務は原則60歳まで。年金事務所で確認を
第1号の手続き:期限・窓口・持ち物
日本年金機構は、退職して国民年金第1号被保険者になる場合の届出について「退職日の翌日から14日以内」、届出先は「住所地の市区役所または町村役場」としています。
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退職日がわかる書類が届くのを待つ(ただし14日は待たない)
離職票や資格喪失連絡票は、退職から10日〜2週間程度かかることがあります。書類が間に合わないときは、先に役場の窓口で事情を伝えてください。あとから提出する運用にしてもらえる場合があります。書類待ちで届出を止めないことが大事です。
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持ち物をそろえる
基礎年金番号通知書(または基礎年金番号がわかるもの)、マイナンバーカードで手続きする場合はマイナンバーカード、本人確認書類。退職直後の加入手続きでは、離職票など資格喪失を証明する書類が必要な場合があります。
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市区町村役場の国民年金窓口で届け出る
国民健康保険の窓口と同じフロアにあることがほとんどなので、健康保険の切り替えと同じ日に済ませてしまうのが効率的です。任意継続を選ぶ場合でも、年金の届出は別途必要です。
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保険料が払えそうにないなら、その場で免除を申請する
後日出直す必要はありません。窓口で「退職(失業)による特例で免除を申請したい」と伝えれば、その場で案内してもらえます。申請書には離職票や雇用保険受給資格者証の写しなど、失業の事実がわかる書類の添付を求められます。
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納付書が届いたら期限までに納める
国民年金保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日です(末日が土日祝・年末年始の場合は翌月最初の金融機関等の営業日)。口座振替やクレジットカード納付、まとめて払う前納も選べます。
14日を過ぎても手続き自体はできます。ただし、保険料は資格を失った月にさかのぼって発生します。「手続きしていないから請求もされていない」だけで、債務が消えているわけではありません。あとでまとめて請求され、しかも免除の申請期間(納付期限から2年)を過ぎていた、というのが最悪のパターンです。
保険料はいくらか(令和8年度)
国民年金保険料は、所得にかかわらず全員同じ定額です。令和8年度(2026年4月〜2027年3月)は1か月あたり17,920円とされています。
| 納める期間 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 1か月 | 17,920円 | 納付期限は翌月末日 |
| 3か月 | 53,760円 | 前納制度を使うと割引あり |
| 6か月 | 107,520円 | 同上 |
| 1年(12か月) | 215,040円 | 同上。まとめるほど割引率が上がる |
| 付加保険料 | 月400円(任意) | 第1号だけの上乗せ制度。将来の老齢基礎年金が増える |
※ 令和8年度の金額です。年度ごとに改定されます。表の金額は前納の割引を反映していない単純な合計で、実際の前納額は日本年金機構の公表額をご確認ください。
会社員のあいだは厚生年金保険料を会社と折半していたので、退職すると「自分で全額を払う」に変わります。給与天引きで見えていなかった負担が急に可視化されるため、退職直後にいちばん重く感じる固定費のひとつです。失業保険がいつ入るかとの兼ね合いは失業保険はいつからもらえるかで時系列を確認してください。
退職日が月末かどうかで1か月分が変わる
ここからは、あまり説明されないけれど金額に直結する話です。
厚生年金の資格喪失日は「退職日の翌日」で、保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで納めるルールになっています。この2つを組み合わせると、退職日が月末かその前日かで、3月分の扱いが変わります。
| 退職日 | 資格喪失日 | 厚生年金保険料 | 3月分の年金は |
|---|---|---|---|
| 3月31日 (月末) |
4月1日 | 3月分まで納める | 厚生年金 会社と折半・将来の年金に反映 |
| 3月30日 (月末の前日) |
3月31日 | 2月分まで | 国民年金 17,920円を全額自己負担 |
※ 日本年金機構の「退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。」の考え方にもとづく整理です。健康保険も同じ資格喪失日のルールで動きます。
ネット上では「月末の前日に辞めれば1か月分の社会保険料が浮く」と紹介されることがあります。たしかに3月30日退職なら、3月分の厚生年金保険料は給与から引かれません。ただし、これを「得」と言い切るのは正確ではありません。
- 結局その月は国民年金を払う:3月分は第1号として17,920円を全額自己負担します。厚生年金なら会社が半分持っていた負担が、全額こちらに来ます
- 厚生年金の加入月数が1か月減る:厚生年金の加入期間は将来の老齢厚生年金の額に反映されます。1か月分の差は小さいものの、確実にマイナス方向です
- 健康保険も同じ日に切れる:3月30日退職なら3月31日から会社の健康保険は使えません。1日だけ空白を作らないよう、国保か任意継続の手続きを前倒しする必要があります
そのうえで本当に効くのは、月末退職と「有給消化の終わり方」の組み合わせです。有給を月末まで使い切ってから退職日を月末に置けば、厚生年金と健康保険を月末まで会社の枠に置いたまま、給与も出た状態で辞められます。退職日の置き方そのものは退職を伝えるベストなタイミングと有給消化のルールで整理しています。月末退職の場合、最後の給与から前月分と退職月分の社会保険料がまとめて引かれることがある点は退職月の給与明細の見方にまとめました。
払えないときは「未納」ではなく「免除申請」
この記事でいちばん伝えたい部分です。収入がない期間に17,920円を毎月払えないのは、まったく珍しいことではありません。そのために免除・納付猶予の制度があります。
日本年金機構は、免除について「全額、4分の3、半額、4分の1の4種類があります」とし、さらに「失業・倒産・事業の廃止などの事実を確認できたときは、失業等した方の前年所得にかかわらず、免除・納付猶予を受けられる特例があります」としています。
ここが重要です。免除は通常、前年の所得で審査されます。会社員として働いていた前年の所得が基準を超えていれば、本来は通りません。ところが失業を理由とする特例なら、その前年所得が審査から外れるのです。退職した人のための仕組みだと考えてください。
| 状態 | 受給資格期間 への算入 | 老齢基礎年金 の額への反映 | 障害年金・ 遺族年金 |
|---|---|---|---|
| 全額納付 | あり | 全額 | 要件を満たす |
| 全額免除 | あり | 2分の1 (税金分) |
要件を満たす |
| 4分の3免除 | あり | 8分の5 | 要件を満たす |
| 半額免除 | あり | 8分の6 | 要件を満たす |
| 4分の1免除 | あり | 8分の7 | 要件を満たす |
| 納付猶予 | あり | 反映されない | 要件を満たす |
| 未納 | なし | なし | 要件を満たさない |
※ 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」の記載にもとづく整理です。一部免除は減額後の保険料を納めることが前提で、納めないと未納扱いになります。個別の判定は年金事務所または市区町村の窓口でご確認ください。
表の最下段と、その上の行を見比べてください。手続きをするかしないかだけで、同じ「払っていない期間」の意味がまったく変わります。全額免除でも、保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1(税金で賄われる部分)は受け取れます。未納にはそれがありません。
- 免除:審査の対象は本人・配偶者・世帯主の前年所得。承認されれば年金額に一部が反映される
- 納付猶予:審査の対象は本人・配偶者のみ(世帯主は対象外)。20歳以上50歳未満が対象で、年金額には反映されない
- つまり実家暮らしで世帯主に収入がある人は、免除は通らないが納付猶予なら通ることがある
- どちらを申請すべきかは窓口で判断してもらえます。両方の可能性を伝えて相談するのが確実です
申請できる期間にも制限があります。日本年金機構は「保険料の納付期限から2年を経過していない期間(申請時点から2年1カ月前までの期間)が申請できます」としています。過去にさかのぼれるのはここまでなので、思い当たる未納期間がある人は、2年を過ぎる前に窓口へ行ってください。
未納が本当に怖い理由
未納で失うものは、老齢年金の額だけではありません。むしろ深刻なのは障害年金と遺族年金のほうです。
障害年金・遺族年金には、一定の保険料納付要件があります。免除・納付猶予が承認された期間はこの要件を判定するうえで算入されますが、未納期間は算入されません。つまり、退職して収入が途絶えている数か月のあいだに事故や病気で重い障害が残ったとき、手続きをしていたかどうかで結果が変わる可能性があるということです。
「どうせ払えないのだから同じ」ではありません。払えないことを申告して承認を受けた期間と、何も言わずに払わなかった期間は、制度上まったく別のものとして扱われます。窓口に行く手間だけで、この差は埋まります。
なお、退職の理由が体調不良で、傷病手当金を受けている(または受けられる)状況なら、傷病手当金の受け取り方もあわせて確認してください。療養中の収入と、年金の免除申請は両立します。
第3号(配偶者の扶養)に入れる条件
配偶者が会社員や公務員(厚生年金の被保険者)であれば、その扶養に入る第3号被保険者という選択肢があります。第3号は自分で保険料を納める必要がありません。負担ゼロで加入期間としてカウントされる、いちばん有利な区分です。
日本年金機構は第3号被保険者を「厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の方)」と説明しています。手続きは「配偶者の勤務している事業所を通じて」行います。自分で役場に行くのではない点に注意してください。
扶養の収入要件は、退職前の年収ではなくこれから先の見込みで判断されるのが一般的です。失業保険(基本手当)も収入として扱われるため、日額によっては130万円の基準を超えると判断され、受給中は扶養に入れないことがあります。基準や運用は健康保険の保険者(協会けんぽ・健康保険組合)ごとに異なるため、配偶者の勤務先を通じて事前に確認してください。この場合、受給が終わってから第3号に切り替える、という順番になります。
「失業保険をもらうか、扶養に入るか」で迷う人は少なくありませんが、両方の金額を並べて比べれば結論は出ます。判断材料としては、失業保険の給付日数と日額のほうが大きいことが多く、会社都合か自己都合かによってもその額が変わります。順番を決めてから動くのが得策です。
あとから納める「追納」は得か
免除や納付猶予を受けた期間は、あとから納めて年金額を回復させることができます。これが追納制度です。
日本年金機構によれば、追納できるのは「追納が承認された月の前10年以内の免除等期間」に限られます。そして「免除などを受けた期間の翌年度から数えて3年度目以降に追納する場合は、当時の保険料額に一定の加算額が上乗せされます」。
- 期限は10年:それを過ぎると納められません。転職して収入が安定したら思い出してください
- 加算を避けるなら2年度以内:3年度目から上乗せが発生します。「余裕ができたら」と待つほど割高になります
- 納付猶予を受けた人は追納の効果が大きい:猶予は年金額に反映されないため、追納しないと満額から丸ごと欠けます
- 全額免除なら2分の1は確保できている:資金に余裕がないうちは、無理に追納するより生活の再建が先です
- 追納した保険料は社会保険料控除の対象になります。所得が戻った年にまとめて納めると、その年の税負担が下がります
優先順位としては、①いま発生している保険料を止める(再就職・第3号)→②免除を申請して未納を作らない→③余裕ができたら追納の順です。追納は最後で構いません。まずは未納の期間を作らないことに集中してください。
よくある質問
退職後の年金の切り替えはいつまでにやりますか?
国民年金の保険料は月いくらですか?
保険料が払えないときはどうすればいいですか?
配偶者の扶養に入れば年金保険料はかかりませんか?
免除を受けた保険料はあとから納められますか?
退職日が月末かどうかで年金保険料は変わりますか?
会社が離職票を出してくれず、手続きが進みません
まとめ:14日以内に窓口へ、払えないなら免除を申請する
- 退職後の年金は第1号(自分で納める)/第2号(すぐ転職)/第3号(配偶者の扶養)の3つに分かれる
- 第1号になる人の届出は退職日の翌日から14日以内、住所地の市区役所または町村役場へ
- 保険料は令和8年度で月17,920円。納付期限は翌月末日
- 退職日が月末か前日かで1か月分の負担先が変わるが、厚生年金の加入月数も動くため一概に得とは言えない
- 払えないときは未納ではなく免除・納付猶予を申請する。失業を理由とする特例なら前年所得は問われない
- 免除期間は受給資格期間に算入され、全額免除でも年金額の2分の1が反映される。未納にはそれがない
- 追納は10年以内・3年度目からは加算あり。優先順位は「保険料を止める→免除申請→追納」の順
年金だけを切り離して考えず、健康保険・失業保険とセットで段取りを組むと抜けが出ません。全体の順番は退職後の手続き完全ガイドに、健康保険の選び方は任意継続と国保はどっちが得かにまとめています。
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度の保険料月額17,920円、付加保険料月400円、納付期限は納付対象月の翌月末日。2026年9月確認)
- 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」(退職日の翌日から14日以内、住所地の市区役所または町村役場、必要な持ち物、第3号は配偶者の勤務先を通じて手続き)
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」(免除4区分と年金額への反映、失業等による特例、審査対象者の範囲、納付猶予は20歳以上50歳未満、申請できる期間は納付期限から2年)
- 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」(承認された月の前10年以内、翌年度から3年度目以降は加算額)
- 日本年金機構「月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。」(資格喪失日は退職日の翌日、保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで)
- 日本年金機構「国民年金の『第1号被保険者』、『第3号被保険者』とは何ですか。」(第3号の要件:20歳以上60歳未満、年収130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満)
- 本文中の金額は2026年9月時点(令和8年度)の目安です。制度の適用可否や個別の判定は、年金事務所・市区町村の国民年金窓口でご確認ください