体調を崩して働けなくなったとき、いちばん怖いのは「収入が止まること」です。休職中の給料は多くの会社で出ません。それでも健康保険に入っていれば、傷病手当金として給料の約3分の2が最長1年6か月支給されます。しかもこの制度は、条件さえ満たせば退職したあとも続けて受け取れます。

ただし条件の組み立てを間違えると、退職した瞬間に打ち切られます。この記事では、協会けんぽの公開情報をもとに、支給額・期間・退職後も受け取る条件・申請の流れを、退職を考えている人の順番で整理します。

先に結論

傷病手当金は「退職日までに被保険者期間が1年以上」「退職日に受給中(または受けられる状態)」の2条件を満たせば、退職後も通算1年6か月まで続けて受け取れます。日額は標準報酬月額の平均÷30×3分の2で、月給30万円なら月に約20万円です。

実務上の鉄則は3つ。①退職前に連続3日の待期を完成させて支給を始めておく ②退職日は出勤しない ③失業保険はハローワークで受給期間を延長して、働ける状態に戻ってから受ける。この順番を守れば、収入の空白を作らずに療養に専念できます。

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傷病手当金がもらえる4つの条件

傷病手当金は、会社員などが加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の給付です。協会けんぽが示す支給条件は次の4つで、すべて満たす必要があります。

  1. 業務外の病気やケガの療養のための休業であること

    仕事中や通勤中のケガ・病気は労災保険(休業補償給付)の対象で、傷病手当金の対象外です。うつ病などの精神疾患も、業務外であれば対象になります。入院に限らず自宅療養でも構いません。

  2. 仕事に就くことができないこと

    「働けない」かどうかは医師の意見をもとに判断されます。申請書に療養担当者(医師)が記入する欄があるのはこのためです。

  3. 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと

    最初の連続3日間は「待期」と呼ばれ、支給されません。待期の3日は有給休暇・土日・祝日でも成立します。4日目以降の働けなかった日が支給の対象です。

  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと

    給与が出ている日は支給されません。ただし給与が傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給されます。有給休暇を使った日は給与が出るので、その日の分は出ません。

💡 国民健康保険には原則ありません

傷病手当金は健康保険(勤め先の保険)の制度です。自営業やフリーランスが入る国民健康保険には原則としてこの給付がありません。だからこそ、会社を辞める前に受給を始めておくことが重要になります。

いくら・いつまでもらえるか(計算例つき)

支給額:標準報酬月額の平均÷30×3分の2

1日あたりの支給額は、支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に、3分の2を掛けた額です。標準報酬月額は給与明細の「健康保険料」から逆算できるほか、会社の総務や年金事務所で確認できます。

標準報酬月額の平均1日あたり1か月(30日)の目安1年6か月の総額の目安
20万円約4,444円約13万円約240万円
30万円約6,667円約20万円約360万円
40万円約8,889円約27万円約480万円

非課税なので、手取りの感覚では給料の7〜8割に近い水準になります。ただし休職中も健康保険料・厚生年金保険料の自己負担分は発生し、会社を通じて支払います(退職後は国民年金・国民健康保険または任意継続の保険料を自分で払います)。

支給期間:支給開始日から「通算」1年6か月

支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。2022年1月の改正で「暦の1年6か月」から「通算」に変わったため、途中で復職して給与を受けた期間は数えず、再び働けなくなったときに残りの期間を使えます。

退職後も続けて受け取る2条件と「退職日に出勤しない」理由

ここがこの記事の核心です。退職すると健康保険の資格を失いますが、次の2つを満たしていれば資格喪失後の継続給付として、残りの期間を退職後も受け取れます。

条件内容確認方法
① 被保険者期間が継続して1年以上 退職日までに、健康保険の被保険者期間が1日も切れずに1年以上あること(転職で保険者が変わっても、空白がなければ通算されます) 健康保険証の資格取得日、または年金事務所・健保組合
② 退職日に受給中、または受けられる状態 資格喪失日の前日(=退職日)に傷病手当金を受けているか、受けられる状態(待期が完成していて労務不能)であること 退職日より前に待期を完成させ、初回の申請を済ませておく

退職日に出勤してはいけない

②の「受けられる状態」は、退職日に働けない状態が続いていることを意味します。挨拶や私物の整理のために退職日に出勤すると、その日は「働ける状態」と扱われ、継続給付の条件を満たさないと判断されるおそれがあります。退職日は出勤せず、欠勤(または傷病手当金の対象日)にするのが実務の鉄則です。私物の受け取りは郵送で、挨拶は退職日より前に済ませます。

⚠ 有給消化で退職日を迎えるときの注意

有給休暇の日は給与が出るため、その日の傷病手当金は支給されません(給与が日額より少なければ差額)。「有給を全部使い切って退職日を迎える」と、退職日に傷病手当金を受けていない状態になるのでは、と不安になる人がいますが、待期が完成していて労務不能が続いていれば「受けられる状態」に当たるというのが一般的な取り扱いです。心配な場合は、退職日の直前は有給ではなく傷病手当金の対象日にする、または申請前に協会けんぽ支部・健保組合へ確認してください。

退職日の決め方:待期→支給開始→退職の順番

退職を考えている人が守るべき順番はこれだけです。

  1. 医師に「就労不能」と診断してもらい、休む

    診断書を取り、会社に休職(または欠勤)を申し出ます。この時点で「辞める」と伝える必要はありません。

  2. 連続3日の待期を完成させ、4日目以降の分を申請する

    待期は土日・有給でも成立します。初回の申請は1か月分まとめてで構いませんが、退職前に一度は申請して受給を始めておくと、②の条件が明確になります。

  3. 被保険者期間が1年以上あるか確認してから退職日を決める

    入社1年未満なら、1年に達する日以降を退職日にします。1年未満で辞めると継続給付の対象外になり、退職後の支給は止まります。

  4. 退職日は出勤しない。私物は郵送、挨拶は事前に

    退職の意思は電話やメールで伝えられます。会社が「最終日は出社を」と言っても、継続給付の条件に関わることを説明して断って構いません。

会社都合と自己都合で傷病手当金の扱いは変わりませんが、退職理由は失業保険の給付制限に影響します。体調不良による退職は「正当な理由のある自己都合」として給付制限がつかないことがあるので、離職票の理由欄は会社都合と自己都合の違いを確認してから署名してください。

失業保険・年金・有給との関係

申請書の書き方と申請の流れ

申請書は「健康保険傷病手当金支給申請書」で、協会けんぽのサイトからダウンロードできます(健康保険組合は各組合の様式)。構成は次の4枚です。

用紙記入する人ポイント
被保険者記入用(2枚)本人申請期間・振込口座・傷病名・発病日など。退職後の申請でも同じ
事業主記入用(1枚)会社出勤状況と給与支払いの証明。在職中の期間分に必要。退職後の期間分は原則不要(健保組合により運用が異なるため確認)
療養担当者記入用(1枚)医師労務不能と認めた期間の意見。申請のたびに必要(文書料は自己負担)

提出先は協会けんぽの各都道府県支部、または加入している健康保険組合です。給与と同じように1か月ごとにまとめて申請するのが一般的で、振込までは申請から2〜4週間程度かかります。初回は初回だけ添付書類(出勤簿の写しなど)を求められることがあります。時効は2年なので、さかのぼっての申請も可能です。

在職中は会社の総務が事業主記入用を用意しますが、退職後の期間は自分と医師の記入だけで完結するのが基本です。会社が非協力的な場合は、協会けんぽ支部に事情を伝えれば対応を案内してもらえます。

会社と連絡が取れないとき(退職代行を使う場合)

体調が理由で退職を伝えられない、上司と話すと症状が悪化する、という人は少なくありません。退職代行を使う場合、傷病手当金の観点で押さえるべきポイントは2つです。すでに休職している人は、立て替えられた社会保険料の精算や有給の扱いも論点になるため、休職中に退職代行を使うときの進め方もあわせて確認してください。

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よくある質問

傷病手当金は退職したらもらえなくなりますか?
退職後も続けて受け取れる制度(資格喪失後の継続給付)があります。条件は、退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あることと、退職日に傷病手当金を受けているか受けられる状態にあることの2つ。退職日に出勤すると条件を満たさなくなるおそれがあるため、退職日は出勤しないのが鉄則です。
傷病手当金はいくらもらえますか?
1日あたり、支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均の30分の1に3分の2を掛けた額です。標準報酬月額30万円なら日額約6,667円、1か月で約20万円。支給期間は支給開始日から通算1年6か月で、途中で出勤した日は数えません。
傷病手当金と失業保険は同時にもらえますか?
同時には受け取れません。失業保険は働ける状態で求職活動をしていることが条件だからです。病気やケガで30日以上働けないときはハローワークで受給期間の延長(最長3年)を申請し、傷病手当金の受給が終わって働けるようになってから失業保険を受ける流れにします。
会社が申請書の事業主欄を書いてくれません
在職中の期間分は事業主の証明が必要ですが、会社が応じない場合は協会けんぽ支部(または健保組合)に事情を伝えると対応を案内してもらえます。退職後の期間分は原則として事業主欄が不要です。会社との連絡そのものが難しいなら、労働組合の退職代行に書類のやり取りを依頼する方法もあります。

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まとめ:辞める前に「受給を始めて」から辞める

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