「いま辞められたら損害賠償を請求する」「代わりの人を採用する費用を払え」——退職を切り出したときに、こう言われることがあります。
この一言で動けなくなる人は多いのですが、退職したこと自体を理由に賠償が認められるのは、実際にはきわめて例外的です。法律がそうなっているからです。ここでは、何が禁止されていて、どこからが例外なのかを条文で分けます。
退職そのものを理由とする損害賠償は、まず認められません。労働基準法16条が「違約金や賠償額をあらかじめ決めておくこと」を禁じているためで、「辞めたら〇万円」という取り決めは無効です。ただし故意に会社へ損害を与えた場合は別です(無断欠勤の放置、機密の持ち出し、備品の破損など)。請求を示唆されたら、その場で認めず、書面で根拠を求めてください。実際に請求されたら弁護士の領域です。
法律が禁じていること
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない——と定められています。「1年以内に辞めたら違約金50万円」「研修費を全額返還」といったあらかじめ額を決めた取り決めは、それ自体が違法です。
ここで禁止されているのは「あらかじめ額を決めること」です。実際に生じた損害について事後に請求すること自体を禁じているわけではありません。この違いが、次の「例外」につながります。
退職を理由とする請求が通らない理由
理由は3つあります。
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1. 退職は法律で認められた権利だから
期間の定めのない雇用なら、民法627条により申し入れから2週間で終了します。権利を使ったことが違法行為になることはありません。
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2. 損害と退職の因果関係を会社が証明しないといけないから
「売上が落ちた」「採用費がかかった」だけでは足りません。あなたが辞めたことで、どの損害がいくら生じたかを会社側が具体的に立証する必要があります。これは実務上かなり難しいことです。
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3. 会社には代替要員を用意する責任があるから
人員配置は会社の経営判断です。1人辞めたら回らない体制そのものが会社側の問題と評価されることがあります。
つまり「辞めたから賠償」は、脅し文句として使われることはあっても、実際に通ることはほとんどありません。
例外にあたる場面
ただし、次のような場合は退職とは別の問題として賠償の対象になり得ます。混同しないでください。
| 行為 | 賠償の可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 2週間の予告期間を守って退職 | まず認められない | 権利の行使 |
| 無断欠勤のまま連絡を絶つ | 可能性あり | 債務不履行になりうる |
| 顧客情報・機密の持ち出し | 高い | 不正競争防止法・守秘義務違反 |
| 備品の破損・横領 | 高い | 退職とは別個の不法行為 |
| 競業避止義務に反する転職 | 個別判断 | 合意の有効性が争点になる |
連絡を絶って出社しなくなる「バックレ」は、退職の意思表示をしていないため、法律上は在職したまま無断欠勤している状態です。ここが賠償リスクの分かれ目になります。詳しくは仕事をバックレるとどうなる?にまとめています。
言われたときの対応
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1. その場で認めない・署名しない
「分かりました」と言わないでください。念書や誓約書にサインするのも避けます。一度署名すると、後から争うのが難しくなります。
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2. 根拠を書面で求める
「どの損害が、いくら、どういう根拠で発生したのかを書面でください」と伝えます。多くの場合、ここで話が止まります。書面にできる根拠がないからです。
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3. やり取りを記録する
日時・発言内容をメモし、可能ならメールなど文字が残る形に切り替えます。録音も有効です。
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4. 実際に請求書や内容証明が届いたら弁護士へ
この段階からは法律事件です。自分で対応せず、代理人を立ててください。
退職代行を使うと請求されやすくなるか
結論として、退職代行を使ったこと自体が賠償の理由になることはありません。むしろ逆で、代行を使うと退職の意思表示が確実に届くため、バックレのような「無断欠勤状態」を避けられます。リスクの観点ではプラスに働きます。
ただしどの型を選ぶかは重要です。賠償の話が出ている状況で民間業者に頼むと、会社と交渉できないため話が止まります。
| 運営の型 | 賠償を示唆されている場合 |
|---|---|
| 民間業者 | 対応できない(交渉は非弁行為) |
| 労働組合型 | 退職条件の交渉は可。賠償請求への対応は不可 |
| 弁護士 | 代理人として対応できる |
なぜ労働組合型では扱えないのかは退職代行は違法?非弁行為を3分で理解するで条文から説明しています。
実際に請求されたら誰に頼むか
賠償請求は弁護士法72条上の「法律事件」です。ここを扱えるのは弁護士だけで、労働組合型でも対応できません。掲載8社のうち該当するのは2社です。
弁護士法人ZENは、弁護士が代理人として会社に対応します。基本プランは27,500円からで、未払い残業代や退職金の請求で会社が支払いを拒んだ場合は、弁護士が交渉して回収額の20%+税が成功報酬になります。LINE・メールで24時間相談できます。
弁護士法人みやびは着手金27,500円からの3プラン制で、公務員は55,000円、自衛隊・業務委託・会社役員は77,000円のプランが用意されています。給与・有給の交渉から損害賠償請求の対応、裁判まで扱えます。※当サイトはこの会社と提携していないため、以下は公式サイトへの通常リンクです。
逆に、賠償の話が出ておらず、ただ辞めたいだけなら弁護士である必要はありません。費用も労働組合型のほうが1万円ほど安く済みます。
有給を使い切りたい、退職日を動かしたい——この程度なら交渉権を持つ労働組合型で足ります。男の退職代行はtoNEXTユニオンが実施し、パート・アルバイトなら組合費込みで19,800円、正社員なら22,800円。24時間受付で、万一辞められなければ全額返金です。
よくある質問
「訴える」と言われましたが本当に訴えられますか?
引き継ぎをせずに辞めたら賠償対象ですか?
入社時に「1年以内に辞めたら違約金」の誓約書を書きました
研修費・資格取得費の返還を求められました
退職代行を使ったら会社が怒って賠償を言い出しました
まとめ
- 「辞めたら〇万円」の取り決めは労基法16条違反で無効
- 退職そのものを理由とする賠償は、まず認められない
- 会社が損害と退職の因果関係を立証する必要があり、実務上かなり難しい
- 例外は無断欠勤の放置・機密の持ち出し・備品の破損など、退職とは別の行為
- 言われたらその場で認めず、根拠を書面で求める
- 実際に請求されたら弁護士の領域。労働組合型では扱えない
- 労働基準法16条 — 賠償予定の禁止
- 民法627条1項 — 期間の定めのない雇用の解約の申入れ
- 民法709条 — 不法行為による損害賠償
- 弁護士法72条 — 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止
- 不正競争防止法 — 営業秘密の不正取得・使用に関する規定
- 本文は一般的な法令の解釈です。個別の事案の見通しは、弁護士にご相談ください