最後の給料日に明細を開いて、手取りがいつもより4万円以上少ない。よく見ると健康保険料と厚生年金保険料が、いつもの倍の金額になっている。退職の相談の中でも、この「最後の明細が多く引かれている」という疑問はかなり多い部類です。

先に答えると、多くの場合は計算ミスではありません。健康保険法167条は、会社を辞める人については「前月及びその月」の保険料を給料から控除できると定めています。ただ、2か月分になるかどうかは退職日が月末か月の途中かと、給料が当月払いか翌月払いかの組み合わせで決まり、条件が合わないのに2か月分引かれているなら確認したほうがいいケースです。

この記事では、仕組みを条文から押さえたうえで、4パターンの早見表、標準報酬月額30万円の人の明細例、2026年4月分から始まった子ども・子育て支援金の扱い、そして最後の給与明細で確かめる7項目(印刷して使えるチェックリスト)を順に並べます。

先に結論

社会保険料は退職日の翌日(資格喪失日)が属する月の前月分までかかり、ふだんは前月分を今月の給料から引く仕組みです。そのため月末に退職し、給料が当月払いの会社では、最後の給料から前月分と退職月分の2か月分がまとめて引かれます。月の途中で辞めた場合や、給料が翌月払いの会社では、通常2か月分にはなりません。

2か月分は余分に取られているのではなく、本来払う分を最後にまとめて精算しているだけです。最後の明細では保険料の月数に加えて、住民税の一括徴収、有給休暇の反映、日割り計算、法令の根拠がない天引きの4点も確かめてください。

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最後の給料が払われない・根拠のない天引きがあるなら

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退職日をまだ決めていないなら

社会保険料の月数は退職日で変わります。伝える日と最終出社日、退職日を先に並べておくと、最後の給料の見通しも立てやすくなります。

社会保険料が2か月分引かれる理由

仕組みは3つのルールの組み合わせでできています。どれも条文や公的機関の案内に書かれている内容です。

ルール中身根拠
①資格を失うのは退職日の翌日 10月31日に退職すると、健康保険と厚生年金の資格を失う日(資格喪失日)は11月1日になる 健康保険法・厚生年金保険法の資格喪失の規定
②保険料は資格喪失月の前月分まで 資格喪失日が11月1日なら、11月の前月=10月分まで保険料がかかる。資格喪失日が10月21日(10月20日退職)なら、9月分まで 日本年金機構の案内(被保険者の資格を喪失した月の前月まで)
③給料から引けるのは「前月分」。辞める人は「前月とその月」 ふだんは今月の給料から先月分を引く。会社に使われなくなる人については、前月分と退職月分の両方を引ける 健康保険法167条1項(厚生年金保険法84条も同じ趣旨)

167条1項の文言は「被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる」です。この括弧書きが、最後の給料で2か月分になる根拠です。

ポイントは、2か月分は「余分」ではないということです。10月末に辞める人の10月分の保険料は、本来11月の給料から引かれるはずのものでした。ところが11月には給料が出ないので、最後の10月の給料でまとめて精算している。年間で見れば、払う月数は増えていません。

✅ 「控除することができる」の意味

条文は「できる」なので、会社が2か月分を給料から引かずに、退職月分を後日振り込みで請求する運用もあり得ます。最後の明細が1か月分だったからといって、退職月分が免除されたとは限りません。後から請求書が届くこともあるので、退職時に「退職月分の保険料はどう精算しますか」と一言確認しておくと安心です。

退職日×給料日の4パターン早見表

2か月分が引かれるかどうかは、退職日が月末か月の途中か、給料が働いた月のうちに支払われるか(当月払い)、翌月に支払われるか(翌月払い)で決まります。会社の多くが採っている「前月分を今月の給料から引く」運用を前提にすると、次の4パターンになります。例は10月に退職する場合です。

パターン保険料がかかる最後の月最後の給料で引かれる社会保険料その後
A:月末退職(10/31)
当月払い(10/25支給)
10月分 9月分+10月分の2か月分 11月から国保・国民年金など(転職先が無い場合)
B:月末退職(10/31)
翌月払い(11/25に10月分を支給)
10月分 10/25の給料で9月分、11/25の最後の給料で10月分。各1か月分 同上
C:月中退職(10/20)
当月払い(10/25支給)
9月分 9月分の1か月分 10月分から国保・国民年金を自分で納める
D:月中退職(10/20)
翌月払い(11/25に10月分を支給)
9月分 10/25の給料で9月分。11/25の最後の給料は社会保険料0円 同上

Dのパターンで最後の明細の社会保険料が0円になり、「得をした」と感じる人がいます。ただしこれは、10月分の健康保険と年金の負担が会社の保険から自分で納める国民健康保険・国民年金へ移っただけです。転職先にすぐ入社しない限り、10月分の国保と国民年金の納付書が後から届きます。

なお、会社によっては「今月分を今月の給料から引く(当月徴収)」運用をしていることがあります。その場合は表の月が1か月ずれます。自分の会社がどちらかは、入社月の給与明細で社会保険料が引かれていたかどうかで見分けられます。入社した月の給料から引かれていれば当月徴収、引かれていなければ前月分を引く運用の可能性が高いと考えられます。

📝 月末と月中、どちらで辞めるのが得かは別の話

月の途中で辞めれば、その月の会社の社会保険料はかかりません。ただし代わりに国民健康保険と国民年金を自分で納めることになり、厚生年金の加入月も1か月減ります。どちらが得かは家族構成や保険料で変わるため、一律には言えません。比較の考え方は退職後の年金の切り替えの「退職日が月末かどうかで1か月分が変わる」で整理しています。

数字で見る:ふだんの月と最後の月の明細

パターンA(月末退職・当月払い)の人を例に、ふだんの月と最後の月を並べます。前提は、協会けんぽ東京支部・39歳(介護保険料なし)・標準報酬月額30万円・総支給額31万円(通勤手当を含む)・一般の事業。料率は2026年度のものです。

控除項目ふだんの月最後の月(パターンA)計算の目安
健康保険料14,775円29,550円30万円×9.85%÷2
子ども・子育て支援金345円690円30万円×0.23%÷2(2026年4月分から)
厚生年金保険料27,450円54,900円30万円×18.3%÷2
雇用保険料1,550円1,550円総支給31万円×5/1000(その月の賃金にかかるので倍にならない)
社会保険料の合計44,120円86,690円差は42,570円

ふだんより約4.3万円多く引かれる計算です。40歳以上65歳未満の人は介護保険料(2026年度は1.62%、本人負担は半分)も2か月分になるため、30万円の例でさらに2,430円×2が加わります。健康保険組合に加入している会社では、料率が協会けんぽと違うため金額も変わります。

一方で、所得税は少し下がることがあります。毎月の源泉所得税は「給料から社会保険料を差し引いた金額」に月額表を当てて決めるため、社会保険料が増える月はその分だけ税額の計算の土台が小さくなるからです。

そのほかに住民税が動きます。1月1日から4月30日の間に退職すると、5月分までの残りが最後の給料からまとめて引かれる(一括徴収)のが原則です。6月から12月に退職した場合は、本人の申し出があれば一括徴収、なければ残りを自分で納める普通徴収に切り替わります。1〜4月退職でパターンAが重なると、最後の手取りがかなり小さくなることがあります。住民税の詳しい流れは退職後の住民税で解説しています。

📝 2026年4月分から:子ども・子育て支援金

公的医療保険に加入している人全員が対象の「子ども・子育て支援金」の徴収が、2026年4月分の保険料から始まりました。協会けんぽの場合、支援金率は0.23%で、会社と本人が半分ずつ負担します。会社員の給料からは原則として5月支給分から引かれています。給与明細では健康保険料に含めて表示する会社と、独立した行で表示する会社があり、どちらでも誤りではありません。健康保険料と同じ扱いなので、退職月には支援金も2か月分になります。

項目ごとの見方(支給と控除)

最後の明細は、ふだんの明細と同じ欄に「最後の月だけの事情」が入り込みます。項目ごとに、何が変わりやすいかをまとめました。

欄項目最後の月に起きやすいこと
支給基本給月の途中で辞めると日割り。日割りの方法(暦日で割るか、所定労働日で割るか)は賃金規程による
有給休暇消化した日が出勤扱い(有給)になっているか。欠勤控除になっていれば誤りの可能性
残業代・手当締め日の関係で、最後の月の残業代が次の給料日に回ることがある。役職手当などの日割りも規程による
通勤手当定期代を先払いしている会社では、残りの期間分の精算(返金・相殺)が入ることがある
控除健康保険料・介護保険料・子ども・子育て支援金パターンAなら2か月分
厚生年金保険料同上
雇用保険料その月の賃金額×料率なので倍にはならない(2026年度の一般の事業は本人負担5/1000)
所得税社会保険料が増えた月は下がることがある。年末調整は受けられないので、精算は転職先か確定申告で
住民税一括徴収か普通徴収かで大きく変わる

支給欄でいちばん揉めやすいのは有給休暇です。最終出社日のあとに有給を消化して退職日を迎えるケースでは、その期間の給料が「有給」として支払われているかを確認してください。有給の取り方や会社に拒まれたときの対応は有給消化しながら退職する方法にまとめています。

最後の給与明細で確かめる7項目

最後の明細が届いたら、次の7項目を上から順に見ていきます。チェックはこの端末に保存されるので、明細が届く日まで開いたままにしておいても大丈夫です。

チェックはこの端末のブラウザに保存されます(サーバーには送りません)。印刷時はナビや広告を省いて一覧だけを出します。

確かめること見る場所・基準
月末退職・当月払いなら2か月分、それ以外は通常1か月分以下。合わなければ理由を聞く
1〜4月退職は原則一括。6〜12月退職で一括を頼んでいないのに一括になっていないか
消化した日数と、欠勤控除の欄に数字が入っていないか
賃金規程の「日割り」の条文。暦日か所定労働日か
入っていなければ、次回の給料日に支払われるのかを確認
「備品弁償」「研修費」「違約金」などの見慣れない控除。根拠を聞く
通帳の入金額と差引支給額。明細が届かない場合は交付を求める

⑥について補足します。労働基準法24条は賃金を全額支払うことを原則としていて、給料から差し引けるのは、税金や社会保険料のように法令で定められたものと、労使協定(労働者の過半数で組織する労働組合や過半数代表者との書面の協定)で決めたものに限られます。会社が「備品を壊した弁償金」などを一方的に給料と相殺することは、この原則との関係で問題になり得ます。損害賠償を求められている場合の考え方は退職時に損害賠償を請求されたらで整理しています。

⑦の明細そのものについては、所得税法231条で、給料を支払う会社は支払明細書を交付しなければならないとされています(電磁的な方法での提供も認められています)。退職したからといって最後の明細を省略してよいわけではありません。

もりそん
「最後の給料が少なすぎる」という相談で明細を一緒に見ると、社会保険料の2か月分と住民税の一括徴収が重なっているだけ、というケースがほとんどです。逆に言えば、この2つを差し引いてもまだ説明がつかない金額が出てきたら、そこで初めて会社に聞けばいい。最初に仕組みを知っておくと、確認すべき行がぐっと絞れます。
運営者・もりそん

おかしいと思ったときの進め方

7項目のどこかで説明がつかない数字が出てきたら、感情的に抗議するより、根拠を書面でもらうことから始めると話が進みやすくなります。

  1. 賃金規程と、退職日・給与の締め日・支払日を確認する

    就業規則と賃金規程は、会社が労働者に周知する義務があります。在職中に写しをもらっておくのがいちばん確実です。4パターンのどれに当たるかも、ここで確定します。

  2. 人事・経理に「どの項目が、どういう計算で」と質問する

    「少ない」ではなく、「社会保険料が2か月分になっている理由」「欠勤控除○日の根拠」のように行を指定して聞きます。メールなど記録が残る方法がおすすめです。単純な入力ミスなら、この段階で訂正されることが多い傾向です。

  3. 支払いが遅い・払われないなら、請求の日付を残す

    労働基準法23条は、退職した人から請求があれば、会社は7日以内に賃金を支払わなければならないと定めています(就業規則の給料日より前でも、請求すれば7日以内が原則)。請求した日付が分かる形で伝えておきます。

  4. 会社が応じないなら、労働基準監督署や弁護士に相談する

    賃金の不払いや根拠のない控除は、労働基準監督署に相談できます。会社に代わって交渉や請求をしてもらいたい場合は、弁護士に依頼する方法があります。どこまで請求できるかは個別の事情によるため、明細と規程を持って相談してください。賃金を請求できる期間(時効)は現在3年で、残業代も含めた請求の進め方は退職時に未払い残業代を請求する方法で解説しています。

⚠ 最後の給料まわりで避けたいこと
  • 明細を確認せずに捨てる:最後の明細は、確定申告や国保の手続きで所得や保険料を確かめるときにも使います。源泉徴収票が届くまでは保管してください
  • 2か月分を見て、すぐに「違法だ」と会社を責める:パターンAなら条文どおりの処理です。まず4パターンの表と照らし合わせてください
  • 返却物と給料の相殺に口頭で同意する:根拠のない相殺に同意すると、後から争いにくくなることがあります。返却物の一覧は退職時の返却物一覧で確認できます
  • 退職代行の業者に給料の交渉まで頼めると思い込む:未払い賃金を会社と交渉したり請求したりできるのは、弁護士か、団体交渉ができる労働組合です。民間業者は伝達しかできません(非弁行為の線引き)

最後の給料のあとに来るお金

最後の給料が終わっても、お金の流れはしばらく続きます。転職先がまだ決まっていない人が、退職後の数か月で受け取る・支払うものを時系列で並べました。

手続き全体の一覧は退職後の手続き一覧にまとめています。最後の給料は、こうした支払いが重なる時期の生活費の原資でもあります。手取りが大きく減る月がどこかを先に押さえておくと、資金繰りの計画が立てやすくなります。

よくある質問

最後の給料で社会保険料が2か月分引かれるのは違法ではありませんか?
健康保険法167条1項は、事業所に使用されなくなった被保険者については前月分とその月の分の保険料を報酬から控除できると定めており、厚生年金保険法84条も同じ趣旨です。月末に退職し、給料が当月払いの会社であれば、最後の給料から2か月分が引かれるのは条文どおりの処理と考えられます。本来翌月の給料から引くはずの退職月分をまとめて精算しているだけで、年間の負担月数は増えていません。
月の途中で辞めた場合、退職月の社会保険料はどうなりますか?
社会保険料は資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の前月分までかかるため、月の途中で退職した場合、退職月の会社の社会保険料はかかりません。その代わり、転職先にすぐ入社しない限り、退職月から国民健康保険と国民年金を自分で納めることになります。
月末退職なのに最後の明細が1か月分しか引かれていません
給料が翌月払いの会社であれば、退職月分は翌月に支払われる最後の給料から引かれるため、各給料で1か月分ずつになるのが通常です。当月払いの会社で1か月分しか引かれていない場合は、退職月分を後日請求する運用の可能性があります。会社に精算方法を確認しておくと安心です。
雇用保険料も2か月分引かれますか?
引かれません。雇用保険料はその月に支払われる賃金の額に料率をかけて計算するため、最後の月も通常どおり1回分です。2026年度の一般の事業の本人負担率は5/1000です。
給与明細の子ども・子育て支援金とは何ですか?
2026年4月分の保険料から、公的医療保険の保険料とあわせて徴収が始まった支援金です。協会けんぽの支援金率は0.23%で、会社と本人が半分ずつ負担し、会社員の給料からは原則として5月支給分から引かれています。健康保険料に含めて表示する会社と、別の行で表示する会社があります。健康保険料と同じ扱いのため、月末退職・当月払いの場合は退職月に2か月分になります。
最後の給与明細がもらえない場合はどうすればいいですか?
所得税法231条は、給料を支払う会社に支払明細書の交付を義務づけています(本人の承諾があれば電子交付も可)。退職後でも交付を求めることができるので、まず人事・経理に書面やメールで依頼してください。応じてもらえない場合は、税務署や労働基準監督署に相談する方法があります。

まとめ:2か月分は「精算」。説明がつかない差額だけを聞く

最後の明細は、会社とのお金のやり取りを締めくくる書類です。仕組みを知っていれば、慌てる必要のない数字と、聞くべき数字を落ち着いて分けられます。

📚 参考情報・データの出典
  • 健康保険法 第167条(保険料の源泉控除)・厚生年金保険法 第84条(e-Gov法令検索、2026年10月確認)
  • 日本年金機構「従業員が退職したときの手続き」「保険料の計算方法」— 資格喪失日と、資格を喪失した月の前月までの保険料(2026年10月確認)
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」— 東京支部の健康保険料率9.85%、介護保険料率1.62%(2026年10月確認)
  • こども家庭庁・全国健康保険協会「子ども・子育て支援金」— 2026年4月分からの徴収、協会けんぽの支援金率0.23%(2026年10月確認)
  • 厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率について」— 一般の事業の労働者負担5/1000(2026年10月確認)
  • 労働基準法 第23条(金品の返還)・第24条(賃金の支払)
  • 所得税法 第226条(源泉徴収票)・第231条(給与等の支払明細書)
  • 総務省「個人住民税」— 退職時の一括徴収(地方税法第321条の5)

※ 本記事の料率・金額は2026年10月時点の目安です。健康保険組合に加入している場合は料率が異なります。個別の事情による判断は、会社の人事・経理、労働基準監督署、社会保険労務士・弁護士などにご確認ください。