退職して数週間、転職先から「前職の源泉徴収票を出してください」と言われて、初めて手元にないことに気づく。この順番でつまずく人がとても多いです。前の会社に連絡するのが気まずくて先送りにしているうちに、年末調整の締切が近づいてくる。

ここで知っておくと動きやすくなるのが、源泉徴収票の交付には期限があり、それを過ぎたら税務署に届け出るルートが用意されていることです。しかも手数料は無料で、資格も要りません。

この記事では、国税庁が公開している手続きの案内と、届出書を提出する前に確認するよう求めているフローチャートをもとに、「いつから催促していいのか」「何を記録しておけばいいのか」「税務署に出したら何が起きるのか」を順に整理します。期待しすぎないための限界も、正直に書きます。

先に結論

源泉徴収票の交付期限は、中途退職なら「退職後1か月」、それ以外なら「翌年1月31日」(国税庁の案内)。この期限を過ぎても届かなければ、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を随時提出できます。手数料は不要で、e-Taxでも書面でも出せます。

ただし提出の前に、自分で会社に交付を求めた記録が要ります。日時・場所・相手・方法・やりとりの内容の5点をメモに残しておくこと。これが添付書類になります。

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画像出典: 男の退職代行公式サイト(2026年9月確認)
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書類のやり取り自体が難しいなら

会社と直接話すこと自体が負担になっている場合は、退職代行という選択肢もあります。

源泉徴収票はいつ届くのが正常か

最初にここを押さえておくと、無駄に待たずに済みます。国税庁が案内している源泉徴収票の交付期限は次のとおりです。

状況交付期限実務上の目安
年の途中で退職した 退職後1か月 最後の給与計算が締まってから発行されるため、退職から2〜4週間で届くことが多い
在職を続けている 翌年1月31日 年末調整の結果とあわせて、12月〜1月に配られるのが一般的

中途退職者は「年末まで待つ」必要がない

ここを勘違いしている人がかなりいます。源泉徴収票は年末調整の書類というイメージが強いため、「12月にならないともらえないもの」と思って待ってしまう。しかし年の途中で辞めた人の交付期限は退職後1か月です。9月末に退職したなら、10月末を過ぎても届かない時点で催促してよい状態、ということになります。

転職先の年末調整は11月頃に動き始めるので、この1か月ルールを知っているかどうかで、動き出しが2か月変わります。

なお、退職時に会社から受け取るべき書類は源泉徴収票だけではありません。雇用保険被保険者証、年金手帳(または基礎年金番号通知書)、離職票などをまとめて確認したい場合は退職時に返却するもの・受け取るもの一覧を先に開いてください。届かない書類が源泉徴収票だけなのか、複数なのかで、次の打ち手が変わります。

出てこない理由を3つに切り分ける

いきなり税務署に行く前に、原因の見当をつけておくと解決が早くなります。相談を受けていて多いのは、次の3パターンです。

  1. 単純に事務処理が終わっていない

    いちばん多いのがこれです。小規模な会社や、給与計算を外部に委託している会社では、退職者の分の処理が後回しになりがちです。悪意がなく、単に忘れられている。この場合は一本連絡すれば数日〜2週間程度で出てくることが多いです。

  2. 送付先が古い住所のまま

    退職後に引っ越した場合、会社は退職時点の住所に送ります。転居届を出していれば転送されますが、転送期間は1年です。それ以前に、退職時に住所変更を伝えていなければ会社は把握していません。「送った」と言われたら、宛先の住所を読み上げてもらうと一発で判明します。

  3. 意図的に出していない・会社と揉めている

    退職の経緯がこじれている場合や、会社側が「返却物が揃っていないから出さない」と主張している場合です。ただし、源泉徴収票の交付は返却物や退職の経緯とは無関係の法律上の義務です。交換条件にできるものではありません。この場合は、次章以降の記録と届出のルートに進むことになります。

3つ目のように会社との話がこじれている場合、当事者同士のやり取りが止まってしまうことがあります。会社からの連絡そのものが苦しいなら、退職代行を使った後に会社から連絡が来るかで、連絡の窓口をどう設計するかの整理も参考になります。

催促は「記録の残る形」で行う(5項目メモ)

ここが、この記事でいちばん実用的な部分です。税務署に届け出るとき、「勤務先に対して、源泉徴収票の交付を求めたことが分かる書類等」が添付書類として求められます。つまり、催促した事実を自分で証明する必要があります。

国税庁の案内では、交付を求める方法は直接面接する・電話する・文書を送付するなど、いずれの方法でも可能とされています。方法は自由です。ただし、次の5点をメモに残すよう求められています。

催促のたびに残す5項目

  1. いつ(交付を求めた日時)
  2. どこで(交付を求めた場所)
  3. 誰に(相手方の応対者)
  4. どのような方法(面接、電話等)
  5. どのようなやりとりをしたか(相手はどのような回答をしたか)

スマホのメモアプリでかまいません。電話を切った直後に3行書くだけで、後から添付書類になります。

実務的には、メールかチャットで催促するのがいちばん楽です。5項目のうち①③④⑤が自動的に残り、送信履歴そのものが証拠になります。電話で話した場合も、通話後に「本日◯時にお電話した件、源泉徴収票の発行をお願いします」と一通メールを送っておけば、記録として成立します。

催促メールの型(そのまま使えます)

件名:源泉徴収票の交付のお願い(◯年◯月◯日退職・氏名)

本文:◯年◯月◯日付で退職いたしました◯◯です。◯年分の給与所得の源泉徴収票をまだ受け取っておりません。所得税法226条により交付期限は退職後1か月と承知しております。転職先の年末調整(または確定申告)に必要なため、発行と送付をお願いできますでしょうか。送付先は下記のとおりです。◯月◯日までにご対応いただけない場合は、税務署への届出も検討しております。

※ 最後の一文は、事実として制度があることを伝えるものです。感情的な表現や脅しの言い回しは避け、事務的に書いてください。

税務署に出す前の4つのチェック

国税庁は、届出書を提出する前に確認すべき事項をフローチャートで示しています。以下の4つがすべて「はい」でなければ、届出の対象になりません。順に確認してください。

確認すること「いいえ」の場合はどうなるか
勤務先から支給されたのは、雇用契約に基づく給与か 請負契約に基づく報酬など給与でない場合、そもそも給与所得の源泉徴収票は発行されない
一度交付を受けたものの再発行ではないか 再発行はこの手続きの対象外。自分で勤務先に再発行を依頼する
交付期限を過ぎているか 事務手続き中の可能性があるため、待つか交付時期を問い合わせる
すでに勤務先に交付を求めたか まず自分で交付を求める。求めていない段階では届出できない

「なくした」場合はこの手続きではない

混同されやすいのですが、一度受け取った源泉徴収票を紛失した場合の再発行は、この届出の対象外です。その場合は会社に再発行を依頼してください。会社には再発行に応じる義務があるとされているので、遠慮する必要はありません。

また、業務委託や請負で働いていた場合は、そもそも給与所得の源泉徴収票ではなく「支払調書」の世界の話になります。自分の契約形態がどちらだったかは、雇用契約書や給与明細の記載で確認できます。

「源泉徴収票不交付の届出書」の出し方

4つのチェックを通過したら、届出書の提出に進みます。国税庁が案内している内容を整理すると、次のとおりです。

項目内容
手続きの名前 源泉徴収票不交付の届出手続(所得税法226条が根拠)
対象者 源泉徴収票を交付されなかった受給者
提出時期 交付期限を経過後、随時
提出方法 e-Taxソフトで作成・提出。書面で作成して持参または送付も可
提出先 納税地等を所轄する税務署長
手数料 不要
添付書類 給与支払明細書が保存されていればその写し/勤務先に交付を求めたことが分かる書類等
受付時間 税務署の開庁時間は8時30分〜17時。閉庁日は送付または時間外収受箱への投函で提出可

2026年8月に書面の様式が変わりました

国税庁の案内によると、令和8年(2026年)8月に税務署提出用の書面様式が変更されています。書面で提出する場合は、古い様式を使い回さず、国税庁ホームページに掲載されている最新の様式をダウンロードしてください。なお、掲載様式のレイアウトが左に寄っている点についても案内があり、そのままで使用可能とされています。

提出物のハードルは高くありません。費用ゼロ・資格不要・郵送可で、平日に休みを取れなくても時間外収受箱に投函すれば出せます。「わざわざ税務署に行くのが大変だから」という理由で諦める必要はない手続きです。

もりそん
相談を受けていて気づくのは、多くの人が「税務署に相談する」を最終手段だと思って身構えていることです。実際には手数料もかからず、様式を1枚出すだけの手続きです。会社に何度言っても動かないなら、抱え込む理由はありません。
運営者・もりそん

届出をしても万能ではない

ここは正直に書いておきます。届出書を出せば税務署が源泉徴収票を発行してくれる、と誤解している解説を見かけますが、そうではありません。

国税庁の案内には、「届出書の提出を受けた後、税務署から勤務先に対して源泉徴収票を交付するよう行政指導を行います。なお、行政指導には法律上の拘束力はなく、相手方の自主的な協力を前提としています」と明記されています。つまり、税務署がやるのは会社への働きかけであって、強制ではありません。

さらに、「届出書を提出した後も、ご自身でも継続して勤務先に対し交付を求めてください」とも書かれています。届出は「これで丸投げできる手続き」ではなく、自分の請求に外からの後押しを加えるものだと理解しておくのが正確です。

それでも届出に意味がある理由

  • 会社にとっては、税務署から連絡が来る事態そのものが避けたいもの。実際にはこの段階で発行されるケースが多い
  • 届出をした記録が残るため、確定申告のときに事情を説明しやすくなる
  • 費用がかからないので、試して損がない

なお、源泉徴収票の交付は所得税法226条で定められた義務であり、所得税法には罰則の規定も置かれています。ただし実際に刑事罰が適用される例は多くなく、「罰則がある」と伝えれば会社が即座に動く、という性質のものではありません。強い言葉で押すよりも、記録を積み上げて手続きを進めるほうが結果につながります。会社が退職に関する対応を渋る構造そのものについては、会社が辞めさせてくれないときの対処法でも触れています。

会社が倒産・廃業しているとき

会社がすでに存在しない場合、催促する相手がいません。この場合の流れは次のようになります。

  1. 破産手続きが進んでいるなら破産管財人に連絡する

    破産手続きが開始されている場合、裁判所が選任した破産管財人が会社の事務を引き継いでいます。源泉徴収票の発行についても、まずはここが窓口になります。管財人の連絡先は、裁判所からの通知や、債権者宛の書面に記載されていることがあります。

  2. 連絡先がわからない・手続きが進んでいないなら税務署に相談する

    管財人が見つからない、あるいはそもそも破産手続きが進んでいない(いわゆる夜逃げ状態)というケースもあります。この場合は所轄の税務署に相談してください。会社名・所在地・倒産時期といった情報と、給与明細や振込記録を揃えて持っていくと話が早く進みます。

  3. 給与明細と振込記録は必ず保管する

    会社が存在しない場合、自分の手元にある資料だけが、いくら支払われていくら源泉徴収されたかを示す材料になります。給与明細、賞与明細、口座の入金履歴は捨てないでください。取り扱いは個別の事情によって異なるため、最終的な判断は税務署または税理士に確認してください。

用途別に見る「いつまでに必要か」

源泉徴収票が必要になる場面は複数あり、締切もそれぞれ違います。自分のケースの緊急度を確認してください。

用途いつまでに必要か間に合わなかった場合
転職先の年末調整 11月〜12月上旬(会社の締切による) 翌年の確定申告で自分で精算する。転職先に早めに事情を伝えておく
自分で行う確定申告 翌年2月16日〜3月15日ごろ 期限内に申告できないと延滞税等の対象になりうる。税務署に事情を相談する
住宅ローン・賃貸の審査 申込のタイミング次第 課税証明書など別の収入証明で代替できる場合がある。窓口に確認する
保育園の入園申請など 自治体の締切による 課税証明書での代替を認める自治体が多い。役所に確認する

いちばん重いのは確定申告の期限

年末調整に間に合わないだけなら、翌年の確定申告で取り返せます。しかし確定申告そのものに間に合わないと、税金の精算が遅れて不利益が出ることがあります。年内に届かない見込みが立った時点で、税務署に届け出て、あわせて申告の相談もしておくのが安全です。

退職後は源泉徴収票以外にも期限のある手続きが並びます。健康保険・年金・失業保険の順番は退職後の手続き完全ガイドに、住民税の扱いは退職後の住民税にまとめてあります。

よくある質問

源泉徴収票はいつまでに交付されるのが正しいですか?
国税庁の案内では、中途退職の場合は退職後1か月、それ以外の場合は翌年1月31日が交付期限とされています。中途退職者は年末を待つ必要がなく、退職から1か月を過ぎても届かなければ催促してよい状態です。まずは会社の担当部署に連絡してください。
税務署に届け出れば源泉徴収票を発行してもらえますか?
税務署が源泉徴収票そのものを発行するわけではありません。届出を受けた税務署が会社に対して交付するよう行政指導を行う仕組みです。国税庁も、行政指導に法律上の拘束力はなく相手方の自主的な協力を前提としている旨、また届出後も自分で交付を求め続けるよう案内しています。それでも、実際にはこの段階で発行されるケースが多いのも事実です。
会社が源泉徴収票を出さないと罰則はありますか?
源泉徴収票の交付は所得税法226条で定められた義務で、所得税法には違反した場合の罰則規定も置かれています。ただし実際に刑事罰が適用される例は多くなく、罰則の存在を伝えれば会社が即座に動くとは限りません。罰則を持ち出すより、記録を残して手続きを進めるほうが実効的です。
会社が倒産していて連絡が取れない場合はどうすればいいですか?
破産手続きが進んでいる場合は、まず破産管財人への連絡が窓口になります。連絡先がわからない場合や手続きが進んでいない場合は、会社名・所在地・倒産時期の情報と、給与明細や振込記録を持って所轄の税務署に相談してください。取り扱いは個別の事情によって異なるため、税務署または税理士に確認することをおすすめします。
源泉徴収票がないと転職先の年末調整はできませんか?
その年に前職の給与がある場合、転職先の年末調整には前職の源泉徴収票が必要になるのが一般的です。年末調整に間に合わなければ、翌年に自分で確定申告をして精算する方法があります。転職先の担当者には早めに事情を伝えておくと、締切の調整や案内をしてもらえることがあります。
給与明細を源泉徴収票の代わりにできますか?
給与明細は源泉徴収票そのものの代わりにはなりませんが、支払われた金額と源泉徴収された税額を示す資料として重要です。税務署への届出でも添付書類として挙げられているため、退職後も捨てずに保管してください。会社が存在しない場合には、これが唯一の手がかりになることがあります。
会社に連絡すること自体がつらい場合はどうすればいいですか?
メールや書面など、直接話さずに済む方法で請求するのが第一の選択肢です。記録も残るので一石二鳥になります。それも難しい状況なら、労働組合が実施する退職代行のように、書類の請求まで含めて会社とのやり取りを引き受けるサービスもあります。できる範囲は依頼先によって異なるため、契約前に確認してください。

まとめ:待つ期限と、動く手順を決めておく

この手続きの本質は、「自分ひとりで会社に言い続ける」状態から抜けることにあります。期限という客観的な線引きがあり、記録の残し方が決まっていて、無料で使える公的な窓口がある。それがわかっていれば、気まずさを理由に先送りする必要はなくなります。

退職後に届かない書類が源泉徴収票以外にもあるなら、離職票が届かないときの手順もあわせて確認してください。会社の事務が全体的に止まっている場合、原因は同じところにあることが多いです。

📚 参考情報・データの出典

※ 本記事は2026年9月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。個別の事情による取り扱いや税額の判断については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。