退職代行を調べていると、必ず出てくるのが「非弁行為」という耳慣れない言葉です。「違法かもしれないサービスを使おうとしているのでは」と不安になって手が止まる——ここでつまずく人は多い。
結論から書きます。退職代行そのものは違法ではありません。違法になりうるのは、たった一つの場面だけ。それがどこなのかを、法律の条文から順に3分で整理します。仕組みがわかれば、業者選びの基準も自動的に決まります。
違法になりうるのは「弁護士でも労働組合でもない民間業者が、報酬をもらって会社と交渉したとき」だけです。
意思を伝えるだけなら、誰がやっても適法。労働組合が交渉できるのは、弁護士法ではなく憲法28条の団体交渉権という別の根拠に立っているからです。
そして依頼した側が罪に問われることはありません。弁護士法72条が規制しているのは業者の行為だけです。
弁護士法72条を4つに分解する
非弁行為の根拠となるのが弁護士法72条です。条文は読みにくいので、要件を4つに分解してみます。この4つがすべてそろったときにはじめて非弁行為になります。
| # | 要件 | 退職代行に当てはめると |
|---|---|---|
| ① | 弁護士(弁護士法人)でない者が | 民間企業が運営している |
| ② | 報酬を得る目的で | 代行料金を受け取っている |
| ③ | 法律事件に関して | 有給・退職日・未払い賃金など争いのある事柄 |
| ④ | 法律事務(鑑定・代理・仲裁・和解など)を業として行う | 会社と交渉して条件をまとめる |
ここで効いてくるのが③と④です。①②はほぼすべての民間業者に当てはまりますが、③④に触れなければ非弁にはなりません。つまり——
「伝える」はセーフ。「交渉する」がアウト。民間型の退職代行が適法に営業できているのは、あくまで伝達に徹しているという建前があるからです。
「伝える」と「交渉する」の境界線
では実際、どこからが「交渉」なのか。具体例で見たほうが早いです。
- 「本人は◯月◯日付で退職の意思です」と伝える
- 「本人へは直接連絡しないでほしい」と申し入れる
- 「有給を消化したい意向です」と希望を伝える
- 会社の回答を本人にそのまま持ち帰る
- 会社が拒否した有給消化を認めさせる
- 退職日を会社の言い分とすり合わせて決める
- 未払い残業代・退職金を請求する
- 損害賠償を示唆されたときに反論する
- 退職合意書の内容を修正させる
注目してほしいのは、左右の違いが「会社が素直に応じるかどうか」でしか決まらない点です。会社が「わかりました、有給も消化してください」と言えば、伝達だけで終わります。会社が「有給は認めない」と言った瞬間に、それは交渉が必要な場面に変わります。
民間業者は、会社が拒否したときに押し返す手段を法的に持っていません。押し返せば非弁行為の恐れがあり、押し返さなければ依頼者の希望が通らない。どちらに転んでも依頼者が損をする——これが「安いから民間型でいい」と言い切れない理由です。会社が譲るかどうかは、依頼する前には誰にもわかりません。
なぜ労働組合はセーフなのか
ここで多くの人が引っかかります。「労働組合も弁護士じゃないのに、なぜ交渉できるの?」
答えは、労働組合は弁護士法とは別の法律に根拠を持っているからです。弁護士法72条の例外規定に頼っているのではなく、そもそも違う土俵で交渉していると理解するのが正確です。
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日本国憲法28条 — 団体交渉権は憲法上の権利
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」。労働者が団結して使用者と交渉することは、法律より上位の憲法が直接保障している権利です。
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労働組合法 — 組合として交渉する資格
労働組合法6条は、労働組合の代表者や委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を持つと定めています。あなたが組合に加入すれば、組合はあなたのために交渉できます。
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労働組合法7条2号 — 会社は拒否できない
使用者が正当な理由なく団体交渉を拒むことは不当労働行為として禁止されています。つまり会社側は「組合とは話さない」という選択ができません。これが労組型の実質的な強さの正体です。
労組型の退職代行に申し込むと、多くの場合その労働組合への加入手続きが含まれます。「組合費」という名目の費用があるのはこのためで(退職代行Jobsの安心パックプランでは代行27,000円+労働組合費2,000円=29,000円)、余計な出費ではなく交渉権を得るための必要経費です。
3つの型で「できること」がどう変わるか
| できること | 民間型 | 労働組合型 | 弁護士型 |
|---|---|---|---|
| 退職の意思を伝える | ◎ | ◎ | ◎ |
| 有給消化・退職日の交渉 | ✕ | ◎ | ◎ |
| 未払い賃金・残業代の請求 | ✕ | △(争いが深まると限界) | ◎ |
| 損害賠償請求への対応・訴訟 | ✕ | ✕ | ◎ |
| 法的根拠 | —(伝達のみ) | 憲法28条・労働組合法 | 弁護士法 |
3つの型の詳しい使い分けは民間・労働組合・弁護士の違いにまとめています。
非弁業者に頼むと何が起きるか
ここが最も誤解されている部分なので、はっきり分けて書きます。
依頼者が罪に問われることはない
弁護士法72条が規制しているのは「報酬を得る目的で法律事務を業として取り扱った者」、つまり業者側です。依頼した労働者は規制の対象ではなく、処罰されることはありません。この点は安心してください。
ただし実務上の不利益は依頼者に降りかかる
罰則がないことと、損をしないことは別です。実際に起こりうるのは次のような事態です。
- 交渉が途中で止まる——会社が「それは交渉では?非弁ではないか」と指摘し、業者が引き下がる。手続きが宙に浮きます
- まとめた合意の効力が争われる——権限のない者が行った交渉として、後から有効性を否定される恐れがあります
- 結局あなたが対応することになる——業者が押し返せないので、会社は本人に戻ってきます(会社から連絡が来るケース)
- 料金は返ってこない——「意思は伝えた」以上、業務は履行されたと扱われます
つまり、あなたが背負うのは刑事責任ではなく「辞めきれないリスク」です。実害としてはこちらのほうが重い。
見分け方チェックリスト
公式サイトを開いて、この4点を確認してください。2分で終わります。
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運営元が明記されているか
会社名だけでなく、労働組合名・弁護士名(または弁護士法人名)まで書かれているか。「弁護士監修」は監修であって、弁護士が代理人になるわけではありません。ここは読み分けてください。
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「交渉できる」と明言しているか、その根拠は何か
民間企業なのに「有給も交渉します」と書いてあれば、その時点で危険信号です。逆に労働組合型は根拠(団体交渉権)を明示していることがほとんどです。
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組合加入の手続きが説明されているか
労組型なら、依頼者が組合員になる流れが説明されているはずです。説明がないのに「労働組合と提携」とだけ書いてある場合は、相談時に確認してください。
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対応できない範囲が書かれているか
誠実なサービスほど「これはできません」を明示します。何でもできると書いてあるサービスのほうが、むしろ疑わしいという逆転が起きる領域です。
迷ったら「交渉権を持つ側」を選べば間違いない
非弁行為の問題は、交渉権のある運営元を選んだ時点で消えます。判断に迷う要素がなくなるので、これが最もシンプルな解決策です。
男の退職代行とわたしNEXTは、合同労働組合が弁護士指導のもとで実施しており、団体交渉権に基づいて有給消化や退職日の交渉まで行えます。料金はアルバイト・パート18,800円、正社員・契約社員・派遣社員21,800円(税込)。
一方、未払い残業代や退職金を請求したい・すでに損害賠償を示唆されている場合は、労働組合でも対応の限界があります。請求や訴訟まで扱えるのは弁護士だけです。弁護士法人ZENは、退職代行のみのお手軽プランが27,500円(税込)、交渉を含む推奨プランが55,000円(税込)、専門プランが77,000円(税込)。金銭回収がある場合は回収額の20%+税が加算されます。
8社それぞれの運営元と対応範囲はおすすめ比較記事で一覧にしています。
よくある質問
「弁護士監修」と書いてあれば安心ですか?
非弁行為をした業者はどうなりますか?
労働組合に入ると、辞めたあとも組合員のままですか?
公務員でも同じですか?
まとめ:違法かどうかは「誰が交渉するか」だけで決まる
- 退職代行そのものは違法ではない。意思を伝えるだけなら誰がやっても適法
- 違法になりうるのは民間業者が報酬を得て会社と交渉したとき(弁護士法72条)
- 労働組合が交渉できるのは、憲法28条・労働組合法という別の根拠に立っているから。会社は正当な理由なく拒否できない
- 依頼者が罪に問われることはない。ただし手続きが止まる実害は依頼者に降りかかる
- 迷ったら交渉権を持つ運営元(労働組合・弁護士)を選べば、この問題自体が消える
非弁行為を怖がる必要はありません。怖がるべきは、交渉が必要になったときに何もできない業者を選んでしまうことです。実際の依頼の流れは退職代行の流れと仕組みで確認できます。
- 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、同法77条(罰則)
- 日本国憲法28条(勤労者の団結権・団体交渉権)
- 労働組合法6条(交渉権限)、7条2号(団体交渉拒否の不当労働行為)
- 民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
- 男の退職代行/退職代行Jobs/弁護士法人ZEN 各公式サイト(2026年8月30日確認)