退職して国民健康保険に入ると、最初に届く納入通知書の金額に驚く人が少なくありません。国保の保険料は前年の所得で決まるため、働いていた年の給与がそのまま反映されるからです。葛飾区の令和8年度(2026年度)の保険料率で計算すると、前年の給与収入が400万円の39歳以下の単身者で、年額はおよそ31万円になります。

ところが、倒産・解雇・退職勧奨・雇止め、あるいは体調不良などの正当な理由がある自己都合で辞めた人には、2010年度から「前年の給与所得を100分の30とみなして計算する」軽減制度があります。同じ条件で計算し直すと、年額はおよそ11万円。差は年に約20万円です。しかもこの軽減は自動では適用されず、市区町村の窓口に自分で届け出る必要があります。

この記事では、対象になる離職理由コードと対象外になる人、離職日によって13か月から24か月まで変わる軽減期間、令和8年度の実際の保険料率を使った試算、申請の手順、そして任意継続を選んだあとでこの制度に気づいた場合の切り替え方まで、順番に整理します。

先に結論

離職時に65歳未満で、ハローワークで交付される雇用保険受給資格者証(または受給資格通知)の離職理由コードが11・12・21・22・31・32(特定受給資格者)か23・33・34(特定理由離職者)なら、国保料の計算で本人の前年の給与所得が30/100として扱われます。期間は離職日の翌日が属する月から、その年度の翌年度末までで、離職日によって13〜24か月の幅があります。下がるのは所得に応じた部分(所得割)で、均等割や住民税は下がりません。国保に加入→ハローワークで受給資格の決定→受給資格者証を持って市区町村に届け出るのが手順で、届出が離職から1年以上遅れるとさかのぼれない自治体もあるため早めに。離職票の理由が「自己都合」にされている場合は、まずハローワークで離職理由を確認・異議申立てするのが先です。

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退職後の健康保険を決める前に

軽減が使えるかどうかで、任意継続と国保のどちらが有利かがひっくり返ることがあります。退職日からの期限もあわせて確認できます。

軽減のしくみ:何が、どのくらい下がるか

国民健康保険料は、大きく分けて2つの部分の合計です。加入者の所得に応じてかかる所得割と、加入者1人ごとに定額でかかる均等割です(自治体によっては世帯ごとの平等割などもあります)。所得割は、前年の所得から基礎控除43万円を引いた「算定基礎額」に料率をかけて計算します。

非自発的失業者の軽減は、この算定に使う本人の前年の給与所得を100分の30とみなす制度です。給与収入ではなく、給与所得控除を引いたあとの「給与所得」が3割になる点に注意してください。

項目軽減の影響補足
所得割大きく下がる計算に使う給与所得が3割になるため、算定基礎額が大きく減る
均等割・平等割下がらない(定額のまま)ただし、軽減後の所得で低所得世帯の均等割の軽減(2〜7割)に該当すれば下がる場合がある
高額療養費などの所得区分軽減後の所得で判定新宿区・練馬区などは、医療費の自己負担限度額の区分判定にも同じ扱いを適用すると案内
給与以外の所得(事業・不動産・年金など)対象外軽減されるのは本人の給与所得のみ
同じ世帯の家族の所得対象外非自発的失業者本人の給与所得だけが3割になる
住民税対象外住民税は前年所得のまま。国保とは別の制度

「所得割」の比重が大きい人ほど効果も大きくなります。つまり、前年の給与が多かった人ほど下がる額が大きい制度です。退職した年の住民税は軽減されないので、生活費の見通しを立てるときは退職後の住民税の払い方も合わせて確認しておいてください。

対象になる人・ならない人

対象かどうかは、自分の感覚や会社の説明ではなく、雇用保険受給資格者証(または受給資格通知)に印字される離職理由コードで決まります。各自治体の案内に共通する条件は次の3つです。

区分離職理由コード代表的な離職の例
特定受給資格者11・12・21・22・31・32倒産、解雇(重責解雇を除く)、契約更新を前提としていた有期契約の雇止め、退職勧奨に応じた離職、事業所の移転で通勤が困難になった離職など
特定理由離職者23・33・34有期契約の期間満了で、本人が更新を希望したのに更新されなかった場合、体調不良・家族の介護・通勤困難など正当な理由のある自己都合退職など
対象外上記以外正当な理由のない自己都合退職、重責解雇、特例受給資格者(季節労働者など)、高年齢受給資格者(65歳以上)

※ コードと離職理由の対応はハローワークが判定します。表の「代表的な例」は一般的な整理で、個別の離職がどれに当たるかはハローワークで確認してください。

見落とされやすいのが特定理由離職者です。「自己都合で辞めたから自分は対象外」と思い込んでいる人の中には、体調不良で医師の意見書を出して正当な理由のある自己都合退職と認められた人や、契約の更新を希望したのに更新されなかった人が含まれています。体調を理由に辞めた場合の扱いは傷病手当金の受け取り方、有期契約の更新をめぐる扱いは有期雇用(契約社員)の途中退職で整理しています。会社都合と自己都合の区分そのものは会社都合退職と自己都合退職の違いで解説しています。

⚠ 雇用保険の手続きをしないと、軽減も受けられない

この軽減は、雇用保険の受給資格が決定され、受給資格者証(受給資格通知)が交付されていることが前提です。すぐに次の仕事が決まっていて失業保険を受け取るつもりがない人でも、ハローワークで手続きをしなければ離職理由コードが確定せず、軽減の申請ができません。国保に入る見込みがあるなら、ハローワークでの手続きは済ませておくのが無難です。

軽減される期間:離職日で13〜24か月に変わる

軽減の期間は、各自治体の案内で「離職日の翌日の属する月から、その月の属する年度の翌年度末まで」とされています。年度は4月から翌年3月までです。言い換えると、離職日の翌日が何年度に入るかで、終わりの月が決まります。

この定義から、離職日ごとの期間を計算すると次のようになります。ここに、見落とされやすい段差があります。

離職日翌日が属する月(年度)軽減の期間最長の月数
2026年3月30日2026年3月(2025年度)2026年3月〜2027年3月13か月
2026年3月31日2026年4月(2026年度)2026年4月〜2028年3月24か月
2026年6月30日2026年7月(2026年度)2026年7月〜2028年3月21か月
2026年9月30日2026年10月(2026年度)2026年10月〜2028年3月18か月
2026年12月31日2027年1月(2026年度)2027年1月〜2028年3月15か月
2027年2月28日2027年3月(2026年度)2027年3月〜2028年3月13か月

※ 期間中に就職して会社の健康保険に加入するなど、国保の資格を失った場合は、その時点で軽減も終わります(喪失日の前月分まで)。大津市は「離職日が令和7年3月31日から令和8年3月30日までの場合は、令和7年度、令和8年度の保険料が軽減」と案内しており、表の考え方と一致します。

表のとおり、3月30日離職と3月31日離職では、軽減の期間が11か月も違います。3月31日に辞めると翌日の4月1日が新しい年度に入るため、その年度と翌年度の丸2年が対象になるからです。逆に、離職日の翌日が3月に入る人は、最短の13か月になります。

ただし、これを理由に退職日を動かすのは慎重に。解雇日や契約の満了日は自分で決められないことが多く、退職日を月末にするか前日にするかで社会保険料や年金の扱いも変わります(退職後の年金の切り替え)。退職勧奨などで退職日を会社と相談できる立場にある場合に、判断材料の1つとして知っておく程度で十分です。実際の軽減額は、期間中に国保に加入していた月数分だけです。

いくら下がるか:令和8年度の保険料率で試算

実際の保険料率で計算してみます。例として、葛飾区が公表している令和8年度(2026年度)の保険料率を使います。令和8年度からは、医療分・後期高齢者支援金分・介護分に加えて「子ども・子育て支援金分」が新しく加わっています。

📝 試算の前提(葛飾区・令和8年度)
  • 所得割の料率:医療分7.51%+後期高齢者支援金分2.80%+子ども・子育て支援金分0.27%=合計10.58%(40〜64歳は介護分2.43%が加わる)
  • 均等割:医療分47,600円+支援金分17,600円+子ども・子育て支援金分1,873円=1人67,073円
  • 算定基礎額=前年の所得−基礎控除43万円
  • 39歳以下の単身世帯、前年は給与収入のみ、1年間(12か月)国保に加入した場合の年額。均等割の軽減は考慮しない
前年の給与収入給与所得通常の年額軽減後の年額差額(年)
300万円202万円→軽減後60.6万円約23.5万円約8.6万円約15.0万円
400万円276万円→軽減後82.8万円約31.4万円約10.9万円約20.4万円
600万円436万円→軽減後130.8万円約48.3万円約16.0万円約32.3万円

※ 2026年10月時点の公表料率による概算です。料率と計算方法は市区町村ごとに異なり、保険料(税)の名称や賦課の方式も違います。正確な額は住所地の市区町村の窓口や試算ツールで確認してください。年度の途中で加入した場合は、加入月からの月割りになります。

たとえば給与収入400万円の場合、通常の算定基礎額は276万円−43万円=233万円ですが、軽減後は82.8万円−43万円=39.8万円まで下がります。所得割は233万円×10.58%=約24.7万円から、39.8万円×10.58%=約4.2万円へ。均等割の約6.7万円は変わらないので、年額では約31.4万円→約10.9万円になります。40〜64歳なら介護分も同じ割合で下がるため、差はさらに広がります。

軽減後の所得が低くなると、世帯の所得によっては均等割の2〜7割軽減にも該当し、試算よりさらに下がることがあります。逆に、給与以外に事業所得や不動産所得がある人は、その部分は軽減されないので、下がり幅は小さくなります。退職後の生活費全体の見積もりは退職前に必要な貯金の目安でまとめています。

申請の手順と必要なもの

手続きは「国保の加入」と「軽減の届出」の2段階です。受給資格者証はハローワークで受給資格が決まってから交付されるため、国保の加入手続きのときに軽減まで一緒に申請できないのが普通です。いったん通常の保険料で通知が届き、届出のあとに計算し直される流れになることが多いと考えてください。

  1. 退職後14日以内に国民健康保険に加入する

    住所地の市区町村の窓口で加入します。会社から受け取る健康保険の資格喪失証明書などが必要です。加入の手続きが遅れても、資格は退職日の翌日にさかのぼります。退職後の手続き全体の順番は退職後の手続きまとめにあります。

  2. ハローワークで求職の申し込みをし、受給資格の決定を受ける

    離職票を持ってハローワークへ行きます。受給資格が決まると、雇用保険受給資格者証(またはマイナポータル等で確認できる受給資格通知)が交付され、そこに離職理由コードが記載されます。失業保険の受け取り開始までの流れは失業保険はいつからもらえる?で解説しています。

  3. 離職理由コードを確認する

    11・12・21・22・31・32・23・33・34のどれかなら対象です。それ以外のコードで、実際の離職理由と違うと感じる場合は、この段階でハローワークに相談します(後述)。

  4. 市区町村の国保の窓口に軽減を届け出る

    持ち物は、雇用保険受給資格者証(受給資格通知)、本人確認書類、マイナンバーが分かるものが一般的です。新宿区・渋谷区などは郵送でも受け付け、渋谷区はオンライン申請にも対応しています。様式名は「特例対象被保険者等に係る届」などで、自治体によって異なります。

  5. 計算し直された保険料の通知を確認する

    軽減の対象期間にさかのぼって計算し直され、払いすぎた分は還付または今後の保険料に充てられるのが一般的です。ただし、練馬区は届出が離職日から1年以上遅れるとさかのぼって軽減できない場合があると案内しています。期限の扱いは自治体ごとに違うため、受給資格者証を受け取ったらすぐ届け出るのが確実です。

✅ 引っ越した場合も手続きできる

軽減の期間中に別の市区町村へ転居した場合は、転入先の自治体であらためて届け出ます。葛飾区は、転出後も対象期間内なら転出先で申請できると案内しています。転入先では前住所地からの所得情報の取り寄せに時間がかかり、軽減の反映が遅れることもあるため、受給資格者証は手元に保管しておきましょう。

任意継続を選んだあとに気づいたら

退職時に会社の健康保険の任意継続を選んだあとで、「国保ならもっと安かった」と気づくことがあります。以前は任意継続を途中でやめることは原則できませんでしたが、2022年1月の健康保険法の改正で、本人の申し出によって任意継続をやめられるようになりました。協会けんぽの案内では、資格喪失の申出書が受理された日の属する月の翌月1日に資格を失います。

比べる点任意継続を続ける国保に切り替えて軽減を受ける
保険料の決まり方退職時の標準報酬月額(上限あり)×料率。会社負担がなくなり全額自己負担前年の給与所得を3割とみなして計算
扶養家族被扶養者が何人いても保険料は同じ家族も国保の加入者になり、人数分の均等割がかかる
期間最長2年軽減は離職日で13〜24か月
切り替えのタイミング-任意継続の資格喪失の申出→翌月1日に喪失→14日以内に国保へ加入して軽減を届け出る

扶養している家族が多い人は、国保にすると家族の分の均等割がかかるため、軽減があっても任意継続のほうが安いことがあります。切り替える前に、市区町村の窓口で軽減を適用した国保料の見込み額を出してもらい、任意継続の保険料と比べてから申し出てください。任意継続の申出書を出すと取り消せないので、比較が先です。比べ方の全体像は任意継続と国民健康保険はどっちが得かで解説しています。

離職理由が「自己都合」になっていたら

退職勧奨に応じて辞めたのに、離職票の離職理由が「自己都合」になっている。こうしたずれは珍しくありません。離職理由を最終的に判定するのは会社ではなくハローワークで、離職票-2には本人が会社の記載に異議があるかを示す欄があります。受給資格の決定の前に、離職の経緯を示す資料を持ってハローワークに相談してください。

離職理由が変われば、失業保険の給付制限や給付日数と同時に、この国保の軽減も受けられるようになります。1つの判定で複数の制度が動くので、納得できない離職理由のまま手続きを進めないことが大切です。会社とのやり取りが難しい場合や、退職の経緯そのものに争いがある場合は、会社と交渉や請求を代理できる弁護士への相談も選択肢になります。民間の退職代行業者は会社との交渉ができない点にも注意してください(民間・労働組合・弁護士の違い)。

よくある質問

自己都合で退職しましたが、軽減の対象になりますか?
正当な理由のない自己都合退職は対象外です。ただし、体調不良・家族の介護・通勤困難など正当な理由があると認められた自己都合退職や、契約の更新を希望したのに更新されなかった期間満了は「特定理由離職者」(離職理由コード23・33・34)にあたり、対象になります。自分のコードは雇用保険受給資格者証で確認できます。
軽減されると保険料はどのくらい下がりますか?
本人の前年の給与所得が30/100として計算されるため、所得割が大きく下がります。葛飾区の令和8年度の保険料率で、前年の給与収入400万円・39歳以下の単身者の年額を試算すると、約31.4万円が約10.9万円になり、差は年約20万円です。均等割は定額のまま残るため、0円にはなりません。正確な額は住所地の市区町村で確認してください。
軽減はいつまで続きますか?
離職日の翌日が属する月から、その月が属する年度の翌年度末までです。たとえば離職日が2026年3月31日なら2026年4月から2028年3月まで(24か月)、2026年9月30日なら2026年10月から2028年3月まで(18か月)になります。期間中に就職して会社の健康保険に加入するなど、国保の資格を失うとその時点で終わります。
失業保険をもらい終わったら、軽減も終わりますか?
軽減の期間は失業保険の受給期間とは別に、離職日をもとに決まります。失業保険の支給が終わっても、国保に加入している限り、対象期間の終わり(翌年度末)まで軽減は続くのが一般的です。浜松市は、途中で就職しても国保を続けている場合は引き続き対象になると案内しています。
申請を忘れていました。さかのぼって軽減されますか?
届出が遅れても、対象期間にさかのぼって計算し直す自治体が多いです。ただし、練馬区のように届出が離職日から1年以上遅れるとさかのぼって軽減できない場合があると案内している自治体もあります。気づいた時点で、雇用保険受給資格者証を持って早めに市区町村の窓口に相談してください。
家族の保険料も軽減されますか?
軽減されるのは、非自発的失業者本人の給与所得だけです。同じ世帯の家族の所得や、本人の給与以外の所得(事業所得・不動産所得など)は軽減の対象になりません。ただし、本人の所得が下がることで、世帯全体として均等割の軽減に該当する場合はあります。

まとめ:受給資格者証が届いたら、その足で国保の窓口へ

📚 参考情報・データの出典
  • 新宿区「非自発的失業者の国民健康保険料の軽減について」— 対象者(65歳未満・離職理由コード)、前年の給与所得を100分の30とした保険料算定と高額療養費等の所得区分判定、申請方法(2026年10月確認)
  • 渋谷区「非自発的失業者の国民健康保険料の軽減」— 特例受給資格者・高年齢受給資格者は対象外、資格喪失時の扱い、オンライン申請(2026年10月確認)
  • 練馬区「非自発的失業者軽減制度」— 届出が離職日から1年以上遅れた場合の取扱い(2026年10月確認)
  • 大津市「国民健康保険 非自発的失業者にかかる保険料の軽減」— 離職日と軽減対象年度の対応(2026年10月確認)
  • 浜松市「非自発的失業者の国民健康保険料軽減制度について」— 軽減期間、途中で就職した場合の扱い(2026年10月確認)
  • 葛飾区「国民健康保険料の計算方法(令和8年度)」「非自発的失業者に係る保険料軽減制度」— 令和8年度の所得割率・均等割額・賦課限度額、転出後の申請(2026年10月確認)
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「任意継続 資格の喪失について」— 2022年1月からの本人の申出による資格喪失(2026年10月確認)
  • ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
  • 国税庁「給与所得控除」— 給与所得の計算(2025年分以降)
  • 本文の試算は公表されている料率を用いた概算です。個別の保険料は住所地の市区町村にご確認ください