親が倒れた、退院後の生活が一人では回らないと言われた。そうした知らせを受けた直後は、「自分が仕事を辞めて見るしかない」と考えがちです。総務省の令和4年就業構造基本調査では、過去1年間に介護・看護を理由に離職した人は約10.6万人にのぼります。

ただ、介護には制度上の「待ち時間」がいくつもあります。要介護認定の結果が出るまで原則30日、ケアマネジャーとの打ち合わせ、施設や在宅サービスの空き待ち。この時期に辞めてしまうと、収入と厚生年金が止まったまま介護が長期化する、という一番苦しい形になりやすいのが現実です。一方で、会社には2025年4月から、介護に直面したと申し出た社員へ両立支援制度を個別に知らせ、利用の意向を確かめる義務が課されています。

この記事では、厚生労働省の育児・介護休業法のパンフレットと、ハローワークの「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」(2026年8月版)をもとに、辞める前に使える制度、介護休業給付金の受け取り方と退職との関係、そしてそれでも辞めると決めたときに守る順番を整理します。

先に結論

介護が始まっても、すぐに退職届を出さないのが原則です。まず会社に介護に直面したことを伝え、介護休業(対象家族1人につき通算93日・3回まで分割可)を「自分が介護する期間」ではなく「介護の体制をつくる期間」として使います。休業中は雇用保険から休業前賃金の67%の介護休業給付金が出ますが、休業を始める時点で休業後に辞めることが決まっている人は対象外です。体制を整えたうえで、介護休暇・残業免除・短時間勤務・テレワークで続けられないかを確かめ、それでも難しいときに退職を選びます。辞めた場合は、特定理由離職者として給付制限なしになる可能性があり、すぐ働けないなら失業保険の受給期間延長で受け取る枠を残せます。

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辞めた場合のお金を先に把握しておくなら

失業保険の日額と総額は、離職前の給与・年齢・雇用保険の加入期間でおおよそ決まります。辞めるかどうかを決める前に、数字で確かめておくと判断がぶれません。

辞める前に使える制度の一覧

育児・介護休業法には、介護休業のほかにも、仕事を続けながら介護するための制度がまとめて定められています。どれも法律上の権利なので、会社の就業規則に書かれていなくても、要件を満たせば申し出ることができます(2026年10月時点)。

制度内容向いている場面
介護休業対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して休める。申出は原則として開始予定日の2週間前まで要介護認定の申請、ケアマネとの打ち合わせ、施設探しなど、体制をつくる時期
介護休暇年5日(対象家族が2人以上なら年10日)。時間単位で取れる通院の付き添い、役所やケアマネとの面談など、短い用事
所定外労働の制限申し出ると残業が免除される。介護が終わるまで何度でも請求できる夕方以降に介護の手が必要なとき
時間外労働の制限法定時間外労働を月24時間・年150時間までに抑える残業ゼロは難しいが、量を減らしたいとき
深夜業の制限午後10時から午前5時の労働を免除夜勤のある職場
短時間勤務などの措置短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成のいずれかを会社が用意する。利用開始から3年以上の間で2回以上使えるデイサービスの送迎時間に合わせたいとき
テレワーク2025年4月から、介護をする社員がテレワークを選べるようにすることが会社の努力義務に在宅で見守りながら働きたいとき

介護休暇は、以前は労使協定によって入社6か月未満の社員を対象外にできましたが、2025年4月の改正でこの除外はできなくなりました。転職して間もない人でも使えます。対象家族は、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。

✅ 2025年4月から会社に課された3つの義務
  • 個別の周知と意向確認:介護に直面したと申し出た社員に、介護休業などの制度と申出先、介護休業給付金について個別に知らせ、使うかどうかを確認する
  • 早い段階での情報提供:40歳になる年度などの節目に、介護に直面する前の社員へ制度を知らせる
  • 雇用環境の整備:研修や相談窓口の設置など、制度を申し出やすくする措置をとる

つまり、上司や人事に「親の介護が始まった」と伝えることが、制度の説明を受ける入口になっています。言いづらさがあっても、退職の話より先に、介護に直面したことだけを伝えるのが近道です。

介護休業は「体制をつくる93日」

93日と聞くと、「3か月で介護が終わるはずがない」と感じる人が多いはずです。厚生労働省自身、介護休業は家族を自分で介護し続けるための期間ではなく、仕事と介護を両立できる体制をつくるための期間と位置づけています。実際、要介護認定から在宅サービスや施設の利用が始まるまでには、次のような段取りがあります。

  1. 地域包括支援センターに相談し、要介護認定を申請する

    親が住む市区町村の地域包括支援センターが最初の窓口です。認定の結果は申請から原則30日以内に出ます。親と離れて暮らしている場合も、親の住所地のセンターに電話で相談できます。

  2. ケアマネジャーを決め、ケアプランをつくる

    要介護1以上なら居宅介護支援事業所のケアマネジャーが、要支援なら地域包括支援センターが、利用するサービスの計画をつくります。仕事の時間帯を伝え、その時間をサービスで埋める前提で計画してもらうのがポイントです。

  3. 在宅サービスか施設かを決め、空きを探す

    デイサービス、訪問介護、ショートステイ、施設入所。地域によっては空き待ちが発生するため、候補を複数持っておきます。

  4. 家族の役割分担と、お金の出どころを決める

    兄弟姉妹がいれば、誰が平日の連絡窓口になるか、費用を誰の年金・貯蓄から出すかを決めます。介護費用は原則として親自身のお金から出すと決めておくと、自分の生活が崩れにくくなります。

  5. 復帰後の働き方を会社と調整する

    残業免除、短時間勤務、テレワークなどを組み合わせ、ケアプランと両立できる勤務形態を決めてから戻ります。

93日を一度に使い切らず、最初の体制づくり、退院や状態が変わったとき、施設への入所時のように3回に分けて取る使い方もできます。

介護休業給付金の金額と、退職との関係

介護休業中は、会社から給与が出ないことが多い一方、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。2026年8月版のハローワークのリーフレットにもとづく主な要件と金額です。

項目内容
対象者雇用保険の被保険者で、介護休業開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上(または80時間以上)ある月が12か月以上ある人
対象になる休業負傷・疾病・障害により2週間以上常時介護が必要な家族のための休業で、初日と末日を明らかにして会社に申し出たもの
支給額休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
上限1支給単位期間(1か月)あたり366,222円(賃金月額の上限546,600円。2027年7月31日までの額)
回数同じ家族について通算93日まで、3回まで
申請1回の休業が終わった後、終了日の翌日から2か月を経過する日の属する月の末日までに、原則として会社が手続きする
対象外になる人介護休業を開始する時点で、休業終了後に離職することが予定されている人

たとえば月給30万円(休業前6か月の平均)の人が1か月休業すると、30万円×67%=およそ20.1万円が目安です。給付金は非課税で、休業が終わってからまとめて申請する仕組みのため、入金は休業の後になります。休業中の生活費は、少なくとも1〜2か月分を手元に用意しておく必要があります。

⚠ 「休んでから辞める」前提では受け取れない

リーフレットは、休業開始時点で休業後に離職することが予定されている人は支給対象にならないと明記しています。介護休業給付金は職場に戻ることを前提にした給付です。辞めると決めている事実を伏せて受け取ると不正受給にあたるおそれがあります。また、休業の途中で離職した場合、その離職日を含む1か月分(支給単位期間)は支給されません。

一方で、復帰するつもりで休業を始め、体制づくりを進めた結果として続けられないと判断することは、制度が想定している範囲の出来事です。迷っている段階なら、退職の意思表示より先に休業を申し出て、体制づくりに使うのが筋の通った順番です。個別の扱いは、会社の人事と管轄のハローワークに確認してください。

介護休業中も社会保険料はかかる

育児休業と違い、介護休業には健康保険・厚生年金の保険料の免除制度がありません。給与が出ない月も、本人負担分の保険料が発生します。会社によって、復帰後の給与から差し引く、休業中に振り込んでもらうなど扱いが異なるため、休業前に人事に確認しておきます。保険料を払い続けるぶん、健康保険の資格と厚生年金の加入期間はそのまま続きます。

続けるか辞めるかの判定チャート

相談を受けていて感じるのは、「辞める・辞めない」を介護が始まった直後の気持ちで決めてしまうケースが多いことです。次の順に確かめると、判断の材料がそろいます。

確認することまだなら済んでいるなら
① 会社に「介護に直面した」と伝えたか退職の話より先に伝える。制度の個別説明を受けられる②へ
② 要介護認定とケアプランは決まったか介護休業を取り、体制づくりを先に進める③へ
③ 残業免除・短時間勤務・テレワークを試したか1〜2か月試して、無理のない形を探る④へ
④ 兄弟姉妹・親族と役割を分けたか窓口役と費用の出どころを決める⑤へ
⑤ それでも勤務時間を確保できないか(①〜④で続けられるなら継続)退職、または両立しやすい職場への転職を検討

⑤に進んだ場合でも、選択肢は「無職で介護」だけではありません。通勤のない仕事、勤務時間を調整しやすい仕事に移るという道があります。在職中に転職先を決められれば、収入と社会保険の空白をつくらずに済みます。

続けながら介護する場合と、辞めて介護する場合のお金

項目続けながら介護辞めて介護
収入給与が続く(短時間勤務なら減る)なくなる。失業保険は「働ける状態で求職している」ことが条件
健康保険会社の健康保険のまま任意継続・国民健康保険・家族の扶養から選ぶ
年金厚生年金の加入が続き、将来の年金額も増える国民年金(第1号)に切り替え。保険料は自分で納める
介護休業給付金要件を満たせば休業中に受け取れる対象外
再就職不要介護が落ち着いた時点で探す。年齢が上がるほど条件の合う求人は減る傾向
介護の手サービス中心で、自分は管理役自分が担う時間が増える。介護サービスの量を減らしがち

辞めると介護に使える時間は増えますが、介護の期間は数年単位に及ぶことも多く、その間に貯蓄と自分の年金の加入期間が削られていきます。親の介護費用は、まず親の年金と貯蓄でまかなう前提で、介護保険サービスを使い切るケアプランを組んでもらうのが、共倒れを避ける一般的な考え方です。辞めた後の生活費の見積もりは退職前に貯金はいくら必要かで、月ごとの空白期間から逆算できます。

もりそん
介護の相談でよく聞くのは、「会社に迷惑をかけたくないから、休むより辞めたほうがいいと思った」という言葉です。でも、介護休業や残業免除は、会社が好意で与えるものではなく法律で決まった仕組みです。使うのは権利で、使わずに辞めるほうが、自分と家族の選択肢を先に減らしてしまう。調べるほど、まず休んで体制をつくる順番の大切さを感じます。
運営者・もりそん

それでも辞めるなら守る順番

体制づくりを尽くしても続けられないと判断した場合の、損をしにくい順番です。

  1. 介護の状態がわかる書類をそろえる

    要介護認定の通知書、医師の診断書、介護サービスの利用状況などです。離職理由を「家族の介護」としてハローワークに認めてもらうための資料になります。

  2. 会社に退職の意思を伝え、離職理由を確認する

    退職届は「一身上の都合」で構いませんが、会社が作成する離職票の離職理由欄に介護が理由であることが書かれるかを確認しておきます。会社の記載と自分の認識が違う場合は、離職票に異議を書いてハローワークで判断を受けられます。詳しくは会社都合と自己都合の違いで解説しています。

  3. 有給休暇を消化し、退職日を決める

    残っている有給は退職日までに使えます。月末退職かどうかで社会保険料の扱いが変わるため、退職日は月末を含めて検討します。伝える時期の目安は退職を伝えるベストなタイミングを参考にしてください。

  4. 退職後14日以内に国民年金、20日以内に任意継続の手続き

    健康保険は任意継続(退職日の翌日から20日以内)、国民健康保険(14日以内)、家族の扶養から選びます。年金は国民年金への切り替えが必要です。

  5. すぐ働けるならハローワークで求職の申込み、働けないなら受給期間延長

    介護で30日以上働けない状態が続くなら、失業保険の受給期間を延長して、受け取れる枠を残しておきます。

辞めたあとの失業保険・健康保険・年金

失業保険:特定理由離職者なら給付制限なし

厚生労働省の「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」は、父母の疾病や負傷で父母を扶養するために離職を余儀なくされた場合や、常時本人の看護を必要とする親族の疾病・負傷のために離職を余儀なくされた場合など、家庭の事情が急変して離職した人を特定理由離職者に含めています。認められると、自己都合退職でも給付制限がかからず、受給資格も「離職前1年間に被保険者期間6か月以上」に緩和されます。判断するのはハローワークで、介護の状況を示す書類の提出を求められることがあります。

ただし失業保険は、働ける状態で仕事を探していることが前提です。介護に専念していて求職できない間は受け取れません。その場合は、親族の介護を理由に受給期間を最長3年延長(本来の1年と合わせて最長4年)できます。延長しても給付日数は増えませんが、介護が落ち着いてから受け取る枠を残せます。手続きの詳細は失業保険の受給期間延長にまとめています。

健康保険:国保の軽減に当たる可能性がある

特定理由離職者と判定され、離職理由コードが33などに当たる場合は、国民健康保険料の計算で前年の給与所得を30/100として扱う軽減の対象になります。任意継続と国保のどちらが安いかはこの軽減で逆転することがあるので、退職後の国保の軽減と任意継続と国保の比較をあわせて確認してください。家族の扶養に入れるかどうかは、失業保険の日額によって変わります。

年金:免除・猶予を申請できる

退職後は国民年金の第1号被保険者に切り替わります。保険料の負担が厳しい場合は、失業を理由にした特例免除を申請できます。免除された期間も受給資格期間には数えられます。手続きの期限と書類は退職後の年金の切り替えを参照してください。

よくある質問

介護休業を取ったあとに退職したら、給付金は返さなければいけませんか?
ハローワークのリーフレットが支給対象外としているのは、介護休業を開始する時点で休業後に離職することが予定されている人です。復帰するつもりで休業を始め、その後の事情で退職することになった場合は、この要件とは別の話になります。ただし休業の途中で離職した場合、その離職日を含む1か月分は支給されません。個別の扱いは会社の人事と管轄のハローワークに確認してください。
介護休業は入社してすぐでも取れますか?
法律上の介護休業は、労使協定がある場合、入社1年未満の人などを対象外にできることになっています。一方、年5日(2人以上なら10日)の介護休暇は、2025年4月から入社6か月未満を理由に対象外にすることができなくなりました。介護休業給付金は、休業開始前の2年間に雇用保険の加入月が12か月以上あることが要件です。自分の会社の扱いは就業規則と人事に確認してください。
パートや契約社員でも介護休業を取れますか?
期間を定めて雇われている人も、介護休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約が満了することが明らかでなければ、取得できます。介護休業給付金も同じ条件が加わります。契約の更新予定は、人事に確認しておくと確実です。
介護を理由に辞めれば、会社都合になりますか?
会社都合(特定受給資格者)ではなく、正当な理由のある自己都合退職として「特定理由離職者」に当たる可能性があります。認められると給付制限がかからず、受給資格の要件も緩和されます。判断はハローワークが行うため、要介護認定の通知書や診断書など、介護の状況がわかる書類を用意しておくと話が進みやすくなります。
介護休業中に給料は出ますか?
法律上、休業中の給与の支払いは義務ではなく、無給とする会社が多い傾向です。その代わり、要件を満たせば雇用保険から休業前賃金の67%の介護休業給付金が出ます。会社から一部の給与が出る場合は、その額に応じて給付金が減額されることがあります。
親と離れて暮らしています。何から始めればいいですか?
まず親が住んでいる市区町村の地域包括支援センターに電話で相談し、要介護認定の申請方法を確認するのが一般的な入口です。並行して、自分の会社に介護に直面したことを伝え、介護休業や介護休暇の説明を受けます。遠方の場合は、介護休暇を時間単位や1日単位で使い、認定調査やケアマネとの面談に合わせて帰省する形がとりやすくなります。

まとめ:辞める前に、休んで体制をつくる

介護は、始まった直後がいちばん判断を誤りやすい時期です。制度は、申し出ないと使えないものばかりです。退職届を書く前に、会社の人事、地域包括支援センター、ハローワークの3か所に話を聞くだけで、続ける道と辞める道のどちらを選んでも、取りこぼしは大きく減らせます。

📚 参考情報・データの出典
  • 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」(令和8年8月版)— 支給対象者、離職予定者の扱い、支給額67%、上限額、93日・3回、申請期限
  • 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」— 介護休業・介護休暇・所定外労働の制限・短時間勤務等の措置、2025年4月施行の個別周知・意向確認、雇用環境の整備、介護休暇の勤続6か月未満除外の廃止、テレワークの努力義務。2026年10月確認
  • 厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」— 家庭の事情の急変による離職。2026年10月確認
  • ハローワークインターネットサービス「基本手当について」「受給期間の延長」。2026年10月確認
  • 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」— 介護・看護を理由とする離職者数
  • 厚生労働省「介護保険制度の概要」— 要介護認定の申請と地域包括支援センター。2026年10月確認

※ 本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。制度の適用は会社の就業規則や個別の事情によって異なります。具体的な判断は会社の人事、ハローワーク、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。